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ていうかなんで俺が必死になる必要があるんだ。
むしろどこのどいつかわからんような奴なら俺が説得して諦めさせてやりたい。
口と頭が全く噛み合わないものを排出し始めた思考は混乱を来す。
結局俺は否定したいのか?応援してやりたいのか?
「誰が好きなんだよ」
「…っ…言えません」
逃げようとする新八の両肩を掴んで自分と向き合わせたが新八はうつ向いて俺を見ようとしない。
本気で惚れた奴なら俺がとやかく言うことじゃないかもしれん。だが、俺にもコイツの保護者としての責任って言うものがある。いや、邪な目ではない。決して。本当に。たぶん。
「言えねぇような奴なのか?」
新八の切羽詰まったような呼吸に言うのが恥ずかしいという様子でもない。
ただブンブンと頭を振って嫌がるばかり。
「なんで言えねぇ?」
「…言ったら、絶対反対する」
「そんなもん言ってみなきゃわかんねぇよ」
「わかります」
俺が反対する奴?
ってことは俺の知ってる奴か。
それでいて俺が絶対反対する奴。
そんな奴いるか?
ていうか俺の知り合いにコイツくれぇのガキなんて…。
「まさか…神楽か!?」
「ちげぇよ馬鹿!」
掴みっぱなしの肩がいけなかったのか至近距離でサイドに蹴りを入れられた。痛い。
神楽ではないらしい。
他にそんな子供がいるかと思案するが思い付かない。そこで視野を広げて年上も考える。
「…ば、ババアとか」
「あんた僕を馬鹿にしてんですか!?ていうか僕どんだけストライクゾーン広いのそれ!!」
いや、ある意味ババアが聞いたらそれもぶっ殺されるよ。とは言わなかったがババアでもない。と、すると。
「言っとくけどキャサリンさんやたまさんも違いますからね!」
「じゃ、お妙とか?」
「もっと違ぇわボケぇ!!」
「ぐふっ!!」
来るであろう蹴りに構えて先を読んだのがいけなかったのか、さっきとは逆サイドに脚がヒットした。うん、良い蹴りだ。痛い。
「も、離してくださいよ!」
本気で抵抗し始めた新八は必死に身体を捻って俺から逃げようとする。
それがまたなんだかいい気がしなかった。
なんか、アレだわ。モヤモヤする。
「やだ」
「なんで!」
「だって、なんかスゲェムカつくんだもん」
え、と新八が目を見開いて力を抜くもんだから力を籠めている俺の方によろけてきた。
ムカつくって何が?
自分で言っている意味がわからない。
でも何故か、目の前の新八は自分の腕にきれいに収まるんじゃないかと思い、そうしてみた。
「ひぇっ!?」
身体を固くした新八の身体は予想通り、いや想像以上に俺の腕の内に馴染んだ。
あ、すごく、いい。
「ムカつく。モヤモヤする。モヤッとボール今すぐ投げつけてぇ」
「いや、古…っていうか、え?あ、あの?銀さん?」
腹の中の煮え切らないものとは裏腹に何故だか気分は僅かに右肩上がりで、鼻腔を擽った匂いを確かめるように鼻を黒い髪に埋めた。
クエスチョンマークを浮上させている新八がおかしくってその顔をよく見てやろうと名残惜しげに身体を離す。
二人の間に生まれた隙間に風が吹いたように熱を逃がした。
「ま、恋なんざ惚れた方が負けだ。過去の自分をひっぱたきに行くくれぇなら、未来の自分が何を選択したのか、そっちの方がよくねぇ?」
そしてその選択には、絶対に無理矢理にでも自分が足を踏み入れてやると、わけのわからない自信があった。
何故なのかはわからない。ただ、腕に収まった新八が他人のものになるのが許せない。オモチャを独り占めする子供のような独占欲。
尚も不可思議なものを見るような目をした新八は、すぐに床に視線を落とした。
黒髪から覗く耳はいつの間にか夕闇に支配された世界とは対象的な色を帯びていた。
自分よりも少し小さな拳が握りられたかと思うと、新八は意を決したように顔を上げた。
「…いつか、銀さんにも教えてあげます。僕が胸を張って言えるときが来るまで…待っていてください」
独占欲が大人の色に変わり、恋に負けたのは俺の方だったと気付かされるのは、まだ先の話。
end
10/02/21 『きっと、僕等は恋をする』提出
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