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タイムマシンを探せ!






空がオレンジに染まり始めた頃、決まり文句の「ツケで」を残して万事屋に帰った。
最近建て付けの悪い玄関を喧しく開けて「たでーま」と言う。
いつもならそこで出迎えまではいかないものの「おかえりなさい」が返ってくるはずなのに今日はそれがない。
不思議に思っていると代わりに家の奥からガタガタと慌ただしい音が聞こえた。


「新八ィー?」


玄関には行儀よく揃えられた草履しかなかったからその持ち主を呼ぶがはっきりと返事はない。
居間にはいないようで開かれっぱなしの和室へと顔を覗かせた。


「…何してんのお前ぇ」


そこには何故か押し入れに頭を突っ込んでる新八がいた。
俺には気付いているようで、どうやら俺から隠れたかったらしい。「うわっ、銀さん!」とくぐもった声が押し入れから聞こえた。


「ったく、なんだぁ?頭隠してなんとやらってか」

「う、わぁ!」


足首を掴んでやりうつ伏せの状態のまま引っ張れば悲鳴を上げた新八を簡単に引きずり出せた。
鼻でも擦ったの新八は呻きながら顔を上げようとしない。
しばらく転がる肢体のそばで突っ立ってみたが微動だにしなくなった新八にさすがに疑問符が浮上した。


「おい、なんだ、大丈夫か」


足裏で揺すってみたがふにゃふにゃと揺すられる身体に反応はない。
意味不明な青少年に多少苛つきもしたがそこは大人の対応だ。
思春期真っ只中の男子には他人が奇怪と思う行動も何かしら理由や根拠があるのかもしれない。
深くは突っ込まず「晩飯作るわ」と言って和室を出た。
まるで腫れ物を扱うような優しさで、自分もそんなことをする歳になったのか。
男はいつまでも少年だと思ってちゃいけねぇや。いや銀さんはまだまだピッチピチな20代ですけどね。
太陽が地平線へと吸い込まれ辺りが赤紫に染まりだした。そろそろ神楽も帰ってくるかなと考えながら冷蔵庫を覗くと視界に青が入りすかさず暖簾の掛かった入り口に目をやると新八が立っていた。目に入ったのは袴の色か。


「なに…」

「お、かえり、なさい」

「…たでーま」


いや、今さら?
とは思ったがあえてツッコミはしなかった。
会話は終了したらしく再び冷蔵庫の中をチェックする。卵にネギにひき肉に大根に味噌。余り物を寄せ集めた具材たちが虎視眈々と俺に早く炒めや焼けや食えやと脅してくる。これで三人分の晩飯作れって、涙が出ちゃうね。我が家の経済状況を如実に体現した冷蔵庫を閉じると、新八はまだ先ほどと同じ場所に立っていた。
まだ何か用かと新八を見やると、夕日が差した頬は前にもどこかで見たことのある表情をしていた。
まさか、とは思うが。


「お前、今度は誰に惚れたよ」

「えっ!?」


合っていなかった焦点が合致して、ビクッと新八は跳ねた。
図星なようで、あからさまな慌てた様子に俺はため息を吐く。


「やめとけやめとけ。お前見る目ねぇから」

「なっ!で、でも…、」


珍しく否定をしないのは誤魔化しても無駄だという学習か。
言い淀むところを見ると、そのもの自体を否定したくないらしい。
ガキの惚れた腫れたなんざもって三ヶ月だっつーの。


「…なんか、キラキラするんです」

「はぁ?」


もじもじしながら一生懸命床とにらめっこする新八が何を言い出すかと思えば。
惚れた奴を見ると自分にはキラキラして映るだとかその人を想うと動悸息切れ気付けがするだとか。
そのレンズカチ割って天野にしてやろうか救心飲んで寝ろと言うと新八は言い返して来ない。むしろ落ち込んだようでシュンとしてしまった。まるで子犬が耳と尻尾を垂らしたようなその落ち込み方にヤバい言い過ぎたか?と焦り出す。
謝ろうにも何か言ってくれないとこちとらシャイなあんちきょーだから口を開けない。
が、新八は黙って居間に戻ってしまった。
あ、ヤバい。
怒らせた、というより悲しませた。
どこの誰にお熱かなんて知らねぇがガキはガキなりに本気なのだろう。それを頭ごなしに否定するのは不味かった。
大人げない。てか、俺余裕ないみたいだ。
追いかけようとすると居間の入り口で新八と衝突した。
肩には毎朝掛けてくる馴染みの風呂敷がある。


「か、帰んの?」

「…銀さんのいう通りです。頭冷やしてきます」


俺の横をすり抜けようとする新八の腕を掴んで待て待てと慌てて引き留めた。


「いや、な。お前が真剣ならいいんだ。ちっと言いすぎた」

「…いいんです。僕、見る目ないんで。出来ることなら過去に戻って自分をひっぱたいてやりたいくらいなんで」


おいおい、一体どこのじゃじゃ馬に引っ掛かったんだよコイツ。
自分であり得ねぇ奴に惚れてることに自覚するほど残念な奴なのか?
それってどこに惚れる要素が?顔か?


「…ま、まぁ、惚れちまったもんはしゃーねぇし、無理矢理無かったことにするもんでもないだろ、な?」






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