* 自分が泊まると朝からわかっている日は、僕用の布団を干す。 本来は客用だったそれも、今じゃあすっかり僕の布団という認識になっていて。 どれだけ僕がここに溶け込んでいるのかが窺える。 そのことが嬉しくてつい笑みが漏れてしまうのは仕方ない。 恥ずかしくて照れくさいから口にはしないけど、万事屋が大好きで、ここに自分の居場所があることが幸せでたまらないんだ。 お昼過ぎにふかふかになった三人分の布団を取り込めば、和室が一気に春を迎えたようにほっこりする。 手で押さえると弾力があって、銀さんも神楽ちゃんも喜ぶだろうなとその表情を思い浮かべてまた笑みを零す。 以前の僕からは考えられないことだ。 銀さんと出会って変わったことの一つ。 面白味のない生活は人をどんどん荒ませて、表情すら奪ってしまう。 それを変えてくれたのが、銀さんだ。 ありがたいと思っているし、ここにいられることの喜びは何物にも代えがたい。 けど、困ったこともあって。 変えられたのは表情だけじゃない。 心も。 ぽふりと布団に倒れこんで目を閉じる。 「恥ずかしいなぁ」 自分の考えに顔が赤くなっていくのを感じて、布団に顔を押し付けた。 メガネが鼻に食い込んで痛い。 誰もいない万事屋。 僕の顔なんて誰も見ていないけど、銀さんを思う自分が恥ずかしくて、とにかく隠したかった。 「…銀さん」 届かない切ない呟きは、太陽の匂いのする布団に吸い込まれた。 僕の意識と共に。 「たでーまー」 その声に意識が浮上する。 ああ、眠っていたのかと頭は理解して起き上がろうとするのに、体は布団の魔力に勝てないのか、意識に反して動いてくれない。 「新八ー?いねーの?」 ほら、銀さんが呼んでる。 起き上がれないままでいると、銀さんは和室を覗いてなんだ寝てんのかとさっきより小さい声。 普段手伝いもしてくれないくせに、こういうとこは優しい。 きっとこの後ぶつぶつ言いながらも、僕に毛布をかけてくれるんだ。 風邪引くぞとか、晩飯どうすんだとか、困ってないのに困ったフリをして。 案の定銀さんは僕が起きないように、そっと毛布をかけてくれた。 そのまま和室から出て行くのかと思えば、すぐそばに座ってじっと僕を見つめている。 「…寝てんの?」 小さい小さい声。 起きていてほしい。けど寝ていてほしい。 そんな願いが込められているような声。 しばらくの静寂の後、髪を掻く音が聞こえたと思ったら、今度は溜め息が。 そして。 「新八」 心に響く声。 泣きそうで、寂しそうで。 でもどこか甘い声。 僕は知ってる。 この声の出し方を。 恋しくて愛しくて。 吐き出したいのに吐き出せない思いの篭った心からの声だ。 僕も銀さんが眠っている時に発したことがあるからわかる。 ねぇ、銀さん。 アンタも僕と同じ感情を持っていてくれてるんなら。 寝言のフリしてアンタの名前を呼ぶから、気付いてくれませんか。 僕が気付いたアンタの心のように。 僕の、心に。 END |