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8 向こうは降っているのか




お妙に投げられて打ち付けた腰でも、
神楽に殴られた顔でも、
飲み過ぎて痛む頭も耐えられた。



耐えられたはずなのに、心臓を握りつぶされそうなこの苦しさに潰されそうだった。






眩しくて、明るくて。
手を伸ばせば近くに居て。

いつだって笑ってくれるソレが欲しくなった。
心の中が渦巻いて、何よりも欲した感情に逃げだしたくなった。




あの少年に、向けるべき感情じゃない。


そう心の中で言ってあの少年の目を見ずに、顔を見ずに、逃げだした。


少年を忘れようとして花街に足を向けて。
浴びる様に毎日の様に酒を飲み、何処か少年に似ている女を抱いた。




抱く思いは色濃くなって、何処か罪悪感で少年から更に逃げだした。


万事屋で毎日の様に待ち続けてくれる少年の優しさに、甘さに甘え切っていた。




壊したくなかった万事屋。
三人と一匹で馬鹿なことしながらふざけ合っているのが心地よかった。

ぬるま湯に浸かった様な関係を壊したくなかったはずなのに。






なのに、自ら壊してしまうなんて。







一人、明かりも点けずに静かな万事屋で。
ソファに寝転がり見慣れた天井をぼんやりと見ていた。



新八が来なくなって、パタリと飲みに行くのをやめた。
女を抱く事もなくなった。


神楽の言葉が頭から離れない。




『新八がどんな気持ちで毎日銀ちゃんの帰りを待ってたか考えた事アルか!?
今、新八がどんな思いでいるか知ってるアルか!?』






自分の気持ちだけで考えた事もなかった。




会いたい。


会いたいと思うのに、拒絶されると思うと、体なんて動かなかった。









「いつまで、腐ってるつもりだぃ」




ギィっと古びた音を立てる。
馴染みの声に返事もせずにゴロリと体を動かした。







「そんなんだから大切なもん達から逃げられちまうのさ」


「うるせーよ」


ババアの言葉にそう言うしかなかった。



ベシンっと頭を叩かれて思わずソファから起き上がる。


「何すんだ!クソババア!」



ソファの背もたれ越しにババアを見れば煙草の煙を天井に向かって吐きだしていた。




「いいのかぃ、それで。ここで大切なもん手放しちまっても。
あの子の隠そうとした感情とアンタが見ようとしなかったそれはここで投げ出していい様なもんなのかぃ」






銀さん。




いつだって笑って受け止めていてくれた新八の表情が瞼に焼き付いて消えなかった。







「パチンコ行って来らぁ」


木刀片手にバタバタと走り抜ければ、負けてくるんじゃないよ!と背中に声を掛けられた。








源チャに跨り走らせた。







俺はまだ、何もしてないんだ。






雨はまだ、降りやまない。




早く、太陽の姿を見たかった。




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