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2 歩くと顔に滴が1つ





「たでぇーまぁー」


ガラガラと無遠慮に開け放たれる玄関。
ふと浮上する意識。
起きるもんかと何処かで意固地になりながら目を瞑ってしまう。




ガタンガタンとぶつかりながら歩く音。
最後にバタンとひと際大きな音がしたと思い、眉を吊り上げて布団から起き上がった。





スッと静かに和室の襖を開ければソファから落ちたのか
テーブルとソファの間でいびきを掻いて寝ている銀さんの姿が目に映る。



近づけばお酒の香りと、鼻を突く様な香水の匂い。






「銀さん」




とても小さな声で名前を呼ぶ。
聞こえるはずなくて。



暗闇の中でキラキラと鈍く輝く銀色。

この人の傍なら、何かが見えると思ってた。
この人についていけば、父が言っていた魂が見えると、思った。







とても近くて。
近くになり過ぎて、とても遠い存在な気がした。








「…僕は…」



僕等をいつだってその大きな背中で護ってくれる。
僕等が傷つかない様にいつだって僕等の一歩前を進んでくれる。



その大きな手が伸ばされる度に嬉しくて。
でも、どこか切なくて悲しくて。





この想いに、気がつかないフリをするのはもう駄目だった。



こんな感情、要らなかった。
この人にこんな感情抱きたくなかった。







この人の後ろ姿を見る度に、切なくなった。


同じ性である事に、悲しくなった。
僕はこの人とは共に歩めない。


この人に未来を残す事が出来やしない。






いびきを掻いて寝ている銀さんに手を伸ばして、
触れようとして拳を握り締めた。





はぁ、とため息をついて和室から今まで自分が使っていた掛け布団を引っ張って持ってくる。




すこしでも、僕がここに居てよかったと、思って欲しかった。







ばさりと銀さんに無造作にかけて玄関に向かう。

ザァァァと聞こえてくる雨音は寝る前と打って変わって激しくなっていた。







立てかけてある傘を持ち玄関を開けた。





真っ暗な闇。



歌舞伎町と言えど寝静まった様でとても静かだった。








降りしきる雨の中傘を差して家路へと向かう。
草鞋と袴の裾が濡れてしまうけれど気にしない。





銀さんの顔を見ていたくなかった。
知らない女の人の香りをつけている銀さんの隣になんて居れなかった。




立ち止まって空を見た。


真っ暗な空かな降ってくる雨は、まるで号泣しているようだった。





泣けない僕のかわりに、泣いてくれているようだった。







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