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08. 踏み出した一歩







源チャにも乗らずにぼんやりと何処かへ行く銀さんの後を僕と神楽ちゃんと沖田さんでつけた。






いつもの銀さんだったら、気がついたと思うのに。
そんなそぶりなんて全くなかった。








全く知らない屋敷。
中から出てきた女の人。


いつか夢で見た、笑っていた人。






弾けるように顔を上げれば、背筋が凍る様に睨まれた。
額から一滴汗が、落ちた。








死んでちょうだい。


女の人の真っ赤な唇がキュッと吊りあがって笑ったかと思うと一歩踏み出してきた。

いち早く反応したのは神楽ちゃん。
僕の前に飛び出して番傘を広げて立ち塞がる。



「お前は誰ネ!!銀ちゃんが変なくなったのはお前のせいアルか!!」


「どきなさい」



真っ直ぐと見据えてくる瞳。
ビリビリと体に電気が走る様な感覚。





発せられた声に立ち尽くす様に動けない神楽ちゃん。


一瞬、時間が止まった気がした。






「こんな事を、望んでいる人がいると言うんですか」

ピクリと目元が歪むのが分かる。


「アンタに何が分かるって言うのよ」


空が、遠くの方でゴロゴロと音を立てた。




「…分かりません。復讐の為だけに生きていくなんて。
貴女が大切に想っていた人がそれを望んでいると思ってるんですか」



「知った様な口を聞かないでちょうだい!!」



ヒステリックに大声を上げる女の人。

ニーと聞こえたシロの声。
慌てた様に走ってきたのを目にとめた。








彼女を止めてほしい。








その願いを、その想いを。
どうにかして伝えたかった。





「貴女が大切に想っていた人は、貴女に前を向いて生きていてほしいと望んでるんですよ!」



「う る さ い !!」



スローモーションで降りてくる刀。

沖田さんが、神楽ちゃんが名前を呼ぶのと同時に頬にかかる生ぬるい液体。






「…っシロ!!!!」



「ええぃ!!邪魔だ!!」


その小さな体を受け止めて抱き抱えれば胸の中で小さく、小さく呼吸をしていた。




「誰も!私の気持ちなんて分かりやしないんだ!!!」


その言葉と同時にぐらりと揺れる脳。



体が重くて、まるで金縛りにあったようで。
暗い暗い闇の中に意識を引きずりこまれてしまった。






どこか、どこか遠くで、神楽ちゃんと沖田さんと。
後から来た土方さん達の声と音。



その中に混ざって聞こえた、あの人の声。




声にならない声で、あの人の名前呼んでみても言葉にならなかった。







ぎんさん。






僕も、アンタみたいに誰かを助けたかったんだ。





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