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03.足りない物を補うように






「…また、来たのかお前は」

昔馴染みのため息交じりの言葉にうるせーと言葉を返した。







ざわざわと少し煩い店内。
カウンターに腰を下して酔えそうにない安酒を注文した。



「ヅラァ」

「ヅラじゃない、桂だ」

出来たてのおでん。
大根に箸を差して口に運べばじんわりと味が広がる。


…何故だか、新八が作ってくれた大根の味噌汁を思い出した。




「どうした、ここ最近毎日見るが。
新八君やリーダーと喧嘩でもしたか?」


ヅラの横に居るペンギンお化けがうんうんと頷きながら蕎麦を食っていた。



「あー…ちげーよ。なんつかーか…傍に居るとなんかしそうで怖えーつーか」

ため息をついてぐっと安酒を飲む。




大切すぎて、他の奴らに触れさせたくない。
自分以外の誰かを映すのを許したくない。

なんて、酷い独占欲。




「昔からそうだな、お前は。本気になればなるたび怯えて怖がって。
いつまでたっても同じことの繰り返しだぞ」

「わーってる」


んなこと分かってる。重々承知だ。






煩い店内。
酔っぱらい達の喧騒。


ガシャンとひと際大きな音がしたと思い顔を向ければ親父共が胸倉をつかみあい殴り合いをしようとしていた。




「おいおい、やめねーか」

「いいぞーもっとやれー!」



周りで止めようとする人間も居ればもっとやれーと声を上げて煽る人間。



ギャーギャー喧しくなってきた店内にガタリと音を立て席を立つ。



「銀時」

「帰ぇーる」


じゃーなーと言えばヅラが追いかけてこようとした。
店の店主に捕まって酒代を払えと呼びとめられていた。




あーあ。暫くあの店行けねーな。
なんて思ってもない事を言ってみたりした。





湿った様な空気。
雨でも降るのか、そう思いながら空を見た。



満月が、輝いていた。









カンカンと音を立てながら階段を上る。
スナックお登勢から漏れる灯りと喧騒。


玄関の前に立って源チャの鍵と一緒にしていた万事屋の鍵を出し玄関を開けた。




薄暗い部屋。

ぼんやりと廊下で寝ている定春の姿が見えた。
起こさぬ様にそっと入ってきたつもりだが大きな欠伸をして神楽が寝ている押入れの前に歩いていく。



悪りぃな、と心の中で思って台所に向かう。

ジーと聞こえるのは古くなった冷蔵庫の音。
冷蔵庫を開けていちご牛乳でも飲もうか、と思い冷蔵庫を開けた。










あんまり飲み過ぎないでくださいよ。





メモと一緒に入っていた、夕飯。
綺麗にラップをされていた。






「…あー…駄目だ」



アイツが欲しい。
欲しくて仕方がない。




アイツの優しさとか温かさとか。
俺以外知らなくていい。







「…新八」







名前を呟けば確かになる想い。




どうしたって、何したって






お前じゃないと、満たされない。




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あきゅろす。
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