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5.ずっと言えなかったこと





さらりと流れる髪の毛を手で梳いて唇をつければ
太陽と石鹸の匂いがした。




静かに寝息を立てて寝るその姿に思わず笑みがこぼれた。




和室で母子揃って太陽の光に当たりキラキラと輝いていた。




「…銀さん」


ゆっくりと目を覚ますパチ恵と瞳が合った。




目の前に座りこむ自分とゆっくりと起き上がるパチ恵。





「あー…あのさ」


ガシガシと頭を掻く。
まるで口から心臓が飛び出してくるんじゃないかと思うほどに
ドクドクと煩かった。






ジワジワ鳴いていた蝉の声がいつの間にか静かになっていた。
窓から入り込むそよそよと穏やかな風がひゅるりと通っていく。










「愛してる。結婚、しよう」






いろんな言葉を考えた。
伝えたかった言葉を考えたら、その言葉だった。






「…はい」



ほんのりと頬を染めて、はにかむように笑う。
ポケットに潜めていたシンプルなリングを薬指にはめればキラリと輝いた。








共に笑い合って生きていきたい存在だった。
年をとっても隣を歩んでいきたいと、思った。










抱きしめた少女の柔らかさは昔と何一つ変わらなかった。








ありがとうの意味と、ごめんの意味と。


これからもよろしく、と意味を込めて口付をしたら何よりも甘くて、何よりも心地よかった。






「幸せに、なりましょうね」


「そーだな」



くぅくぅと眠る幼い子供を見て、二人で、笑った。





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