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04. 想う数だけ聞こえる音色





誰よりも、分かってくれていると思ってた。
何も言わずに何もせずとも。





毎日のように飲みに行って
誰かの匂いでも付けてくればそれなりに何かしら思ってくれるのではないかと。


そんな馬鹿な事を考えていた。








「ねぇ、銀さん」

甘ったるく甘えてくるような声。
隣に居る女から薔薇の匂いがする。

そう言えばと思いだした。
昔からコイツはこの香水を使ってたと言う事を。



「考えてくれた?」

カウンターに座り胸を押し付けるように腕に抱きついて来たのに眉を顰めてしまう。




「考えるも何も、俺はお前とヨリを戻すことなんて考えてねーよ」

「どーして!いいじゃない!今付き合ってる人いないんでしょ」



ほんの少しヒステリックに言ってくる女の腕を振りほどく。


鼻につく、薔薇の香りに胸焼けがする。




アイツの、新八の太陽と石鹸の優しい香りが恋しいと思った。






「相談事があるって言ってたから来ただけだ」

ガタリとわざとらしく音を立てて立ち上がる。
凄く不快そうな顔をして後を追ってくる。



夜の歌舞伎町がネオンで華やかに輝く時間。
すれ違う人々の笑い声や酒の匂い。




「銀さん、ど、うして」

下駄の音を引き連れて追いかけてきた彼女に振り向いた。







「惚れてる奴がいんだよ」






夜風がただ、冷たく感じた。













「じゃぁ、僕帰るからキチンと戸締りしてよね」





ガタガタと窓をたたく風の音。
上着を羽織ってマフラーを捲いて帰る準備をする。


「こんな時間なのに帰るアルか?」

時計を見ればもうすぐ0時になろうとしていた。



「うん、帰るよ」


ヘラリと笑った、つもりだった。
ここ最近毎晩飲みに出かける銀さんを待つのに嫌気がさした。

銀さんから香る薔薇の香りに、もう耐えれそうになかった。







「新八ィ」

神楽ちゃんが眉を下げて見てきた。

「どうしたの?」

そう言うと苦い顔をして、気づいてないアルか?と言われた。





「最近、新八笑ってるけど笑ってないヨ。
心が笑ってないアルよ」





真っ直ぐと射抜く様に見てくる神楽ちゃんの瞳は苦手だ。


どこか、銀さんに似ていると思ってしまう。



「そ、う、かな?自分じゃそう言うつもりないんだけど…」

頭を掻いて笑う。
神楽ちゃんの腕が伸びて胸倉を掴んできた。




「ど、うして!どうして!銀ちゃんを信じれなかったアルか!
どうして、そんなに悲しそうに笑うアルか!」



ガタガタと吹き荒れるように玄関の戸が揺れる。



「か、ぐら、ちゃん…」



「何もないんだったら心から笑って見せろヨ!!
いつも、いつも何で泣きそうに笑うアルか!?」


ゆらりと揺れた神楽ちゃんの空の様に青い瞳。


…泣きそうなのは神楽ちゃんだと思った。



「銀ちゃんの為だって言ったのは新八アル」



自分の心から目を背けたら駄目アル。





ストンと神楽ちゃんの言葉が落ちてくる。
じわりじわりと広がるこの想いはなんだろうか。



銀さんと隣に居るだけでよかった。
いつしかそれだけじゃ満足できなくなっていた。
口喧しく小言を言って。
それが正しいと思って銀さんの話なんて聞かなくなってた。


銀さんの、気持ちも想いも、自分が見ていなかった。
自分で見ようと、していなかった。






「…僕は…」



どうしたかったんだろう。
どう思っているんだろう。











キラキラ輝くネオンは星の光を掻き消す様に光っていた。




人々の話し声が聞こえる歌舞伎町を足早と駆けていく。





銀に光るあの人を、ただ探して。







痛くなった脇腹を押えて。
呼吸をすれば冷たい空気が肺に染みた。


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あきゅろす。
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