企画小説
4
「見なくていいから…。ねえ、撫でてよ」
「ええええ、臨也を?嫌だよ。
…………嘘です、ごめんなさい。それにしても今日の君はいつもより気持ち悪いね」
「新羅はいつもよりうるさいよ」
薄っぺらいインナーの上に手が軽く触れて、擽ったさを覚えるほどに優しく撫でられる。机の上に腰掛けた俺は宙に浮いている足をぷらぷらと振って、たまにわざと新羅の足を蹴ってやった。痛いよ、なんていう新羅は、それでもお腹を撫で続ける。
裾を掴んで、名前を呼んだ。
何故かその声は震えていて、続きになにを言うつもりだったのかわからなくなって、その先に言葉は続かなかった。
「……臨也」
「なに?」
「……………」
「なんだよ」
「………今の、臨也の真似」
「うざっ」
くすくすと笑いあって、それから新羅の手が離れていった。寂しく思いながらも、止める言葉は出てこなかった。
座っていた机から降りて、鞄を持つ。
「帰るのかい?」
「うん」
「怪我は、」
「本当にたいしたことないから。大丈夫」
帰って散らかった部屋を片付けなければならない。クルリとマイルは最近学校帰りに遊んでいるみたいだから、帰りは少し遅い。心配じゃない、訳ではないけど、あんな家にいるよりは何倍もましだろうから何も言わない。
あのふたりが帰ってきて、父親が帰ってくる前。その少しの間だけでも、普通の家で過ごしたい。食事ですらリビングでとることがない家だけど。
教室の出口へと向かう俺の手を掴まれた。びっくりして振り返れば、これまた形容しにくい顔をした新羅が、なにを言うわけでもなく、そこに佇んでいた。
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