短編小説
43.クールビューティー(波臨)
波臨





人外の力で投げられたごみ箱に吹っ飛ばされ、打撲やら擦り傷やらの傷を負った俺に
「あなたって本当に馬鹿なのね」そう冷たい口調で吐き捨てた波江は、それでも甲斐甲斐しく手当てをしてくれる。
怪我を負って帰ってきたときはいつもそうだ。何も言わなくても救急箱を片手に持ち、俺をソファーに座らせる。

わあ、波江さん優しーい。
そう言ったらぶたれた。褒めたのに。

元々寝不足だった。
治療されている最中目を擦った俺に、「目障りだから寝てなさい。あなたがいなくても支障は全くないわ」と言ってのけた波江は、治療を終わらせ踵を返した。
まあ眠たいのは事実だし、甘えさせてもらおう。有能な秘書がいることに感謝しながら着替えてベッドの中に入り込んで、じんわりと痛む身体を休めようと目を閉じた。



「…平和島静雄かしら。
この無様な傷をつけたのは」

寝室に入ってきたのは、つい先程寝ていいと言っていた筈の波江。というか、この家には俺と波江しかいないのだから当然だ。どうしたのだろう、そう思いながらも素直に返事をする。

「しかいないでしょ」

「………」

「なに、波江さんどうした、の…」

黒いストッキングに包まれた、膝で折った波江の足が、俺の両太腿の上に乗せられる。布団越しに重さを感じた。

常にスッと伸びている波江の背筋が曲がり、無表情のいつもと変わらない顔が、俺の目の前にくる。至近距離で見つめ合うただの雇い主と、ただの秘書。
どんな状況だろう、これ。
長い黒髪がまるで俺を閉じ込めるかのように顔の左右にカーテンを作り、その髪の隙間から見える部屋は当然、いつもの部屋だった。

そんな時間が暫く続き、ただでさえ近い距離だというのに、その顔が更に近付いた。

ああ、

「駄目だよ、波江さん」

ぴたりと身体を固めた波江の鋭い視線に射抜かれる。少しだけ笑って、続けた。

「俺、初めてキスした人と結婚するって
決めてるんだから」





あれ、おかしい。
俺の予定では「死ねばいいわ」で一蹴されて終わりな筈だったのに。
重なった柔らかいそれに一瞬驚いて、今の俺の感情を表すとしたら「あらら」だ。
絡んできた指は俺よりあたたかくて、その体温が誰かを思い起こさせた……ような気がした。






クールビューティー








波vs静→臨をかきたかったの…

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