短編小説
3
「あ゛あ゛ああ゛ぁああ゛ああ!!!!」

服を捲り晒していた腕が、火に炙られた。
腕を引いてもシズちゃんの力に適う筈もなく、びくともしなかった。火にじわじわと腕が炙られていく様は、滲む視界のせいでよく見えない。ただ熱い熱いと、それだけが思考を支配した。

「臨也は俺と話すことより、こっちを優先するんだな」

ひたすら謝った。声になっていなかったのかもしれないけれど、泣き叫びながらなんとか腕を解放してもらおうと、何度も何度も謝った。たった数分、もしかしたら数十秒が永遠に感じた。

その後床にうずくまって腕を押さえている俺に、シズちゃんが包丁を持ち出してきたことも衝撃だった。俺が一番大事だって、たった今言ったじゃねぇか、と。俺を放っておけるくらい大事な腕なんていらねぇよな、と冷たい目に射抜かれた。
今思えば俺の腕にすら嫉妬するほど俺のことを愛してくれていたのに、あの時はシズちゃんが怖いと感じてしまっていた。あの時の俺はどうにかしてたのだろう。
けど、俺の腕は俺の一部で、けど俺の腕はシズちゃんにとって俺とは違うもので。
このことは俺がいくら考えてもわからないことだから、もう何も考えなくていい。シズちゃんに任せておけばいいと思った。
包丁を持ったシズちゃんに、額を床につけて、激痛を発する腕を堪えて詫びた。シズちゃんがもういいと言うまで勝手に頭をあげることなんてできなかったから、頭を下げて謝り続けた。



まだやってたのか、と声をかけられ恐る恐る顔を上げれば、眠そうな顔をしたシズちゃんがいた。窓の外はもう明るくて、腹減った、と呟いたシズちゃんの声はもう普通で、俺は安心してシズちゃんの朝ご飯を作った。
眠かったし腕や足が痛くて思うように動かったけど、それよりもシズちゃんが普通に接してくれたことの方が嬉しかった。

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