短編小説
1
切断/微カニバ





玄関の方からけたたましい音が聞こえた。
何の騒ぎだと早足でそちらに向かうと、玄関が非常に残念な状態になっていた。こんなことをできるのは僕の知っている限りひとりしかいない。そしてその思い描いたひとりが、大破した玄関の前に立っていた。

「ちょっと静雄、なに、」

「新羅」

その声に、玄関に向けていた目を彼の顔に向けた。……おお、吃驚仰天だ。彼はぼろぼろと涙を零し、虚ろな目で迷子になった子供のように立ちすくんでいたのだ。数ヶ月前見た彼とは随分違う。どうしたと問えば、悲痛な顔でぽつりと呟いた。

「臨也が逃げようとした」

そう言った彼が玄関にあるものを投げた。
それはまさに今彼が呼んだ名前で、彼の恋人の筈の、僕の友人の臨也だ。逃げようとしたと表された彼の様は酷いものだった。
頬は腫れ上がり顔の至る所には青痣ができ、申し訳程度に身体を隠す布切れと化した服の隙間からは、様々な傷でぼろぼろの肌が覗き見える。成る程、彼が暫く僕の前に姿を見せなかったのは静雄に閉じ込められてたからか。傷だらけの彼を見ながら冷静にそう思った。

血の匂いがする、身体を確かめる。

逃げようとした彼の足首から先にはなにもなかった。

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あきゅろす。
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