短編小説
2
「臨也」

随分気を抜いていたらしい、頭を下げひゅうひゅうと音を鳴らす自らの呼吸音に混じり、忌まわしい化け物の声が聞こえてきた。顔を上げるのも辛くて、その声を無視していると、髪を鷲掴みにされ無理矢理顔を上げさせられた。髪がぶちぶちと千切れる音、頭皮が痛い。俺がハゲになったらどうしてくれるんだこの馬鹿は。

「無視してんじゃねえよ」

「……っズ、ちゃ……」

声がかすれる。
一日、もしくはそれ以上かもしれない、水を口にしていないため、喉が渇き会話すら困難だ。

「もう限界だろ」

「はは…ッ、そ、かもね」

「なら、言うことわかわるよなぁ?」

「………」

「俺は構わねぇけどな。
ただ臨也くんがつれぇだろうから聞いてやってるんだぜ?」

黙って目の前でにやにやと笑うシズちゃんを睨む。だが、結局俺の行き着く先はどうせ同じだ。それなら、早く堕ちた方がいいのだろう。もう限界、喉が痛い、お腹が痛い、ガチガチに縛られた全身が痛い。

「おら、言えよ」

数日前から俺を現在進行形で苦しめている命令は、全然大したことではないのかもしれない。だが俺が『お願い』をしなければならないのだから、屈辱以外の何者でもない。まだ無理矢理された方がマシだ。シズちゃんから目をそらし、ぼんやりと虚空を見て、心をからっぽにする。そして口を開く。

「……シズ、ちゃん……の、………しゃ…、らせ…」

「聞こえねぇよ」

「……っズ、ちゃんのを、しゃぶらせ、て、くださ…」

「ああ?」

ギリ、と唇を噛む。こんなに殺意を抱いたことはない。死ね、シズちゃん。

「……しゃぶらせて、ください…」

「人と話すときは目を見て話そうぜ、臨也くんよぉ?」

「…しゃぶらせてください。おねがいします……」

ククッ、とバケモノが満足そうに笑った。仕方ねぇな、と赤黒く凶暴的なそれを、スラックスと下着の中から取り出す。
プルプルと唇が震えているのを感じながら、それを口内へと迎えた。

[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!