短編小説
1
臨也と一緒に暮らし始めて何ヶ月になるのか、なんて覚えてないし数える気もない。そんなことより大事なのは、今日も臨也が隣にいるということだ。



ほんの少し開いている臨也の口から、震えるような吐息が聞こえる。俺の隣で眠る、臨也のふっくらとした唇に指を這わせ、なぞる。今すぐにでもそこを貪って、唾液を啜って注いで舌を絡めてやりたいのを堪え、普段の姿からは想像のつかない無防備な寝顔を堪能する。頬を掌で包み、親指を柔らかく滑らせ擽るように撫でてみると、臨也はピクリと反応を示したものの、目を覚ます気配はない。

一緒に寝るようになったはじめの頃は、ほんの少し身を捻らせたり、寝返りをうっただけで一晩に何度も目を覚ましていた臨也が、今は触れても目を覚まさないほど俺を信頼してくれてると思うと嬉しくて堪らない。それ以前に臨也の寝顔を見つめることのできる俺は、どれだけ幸せなのだろうか。


「…臨也、」


気持ちよさそうに眠る臨也を起こすのは気が引けたが、早く臨也の赤い綺麗な目が見たくて、声が聞きたくて、瞼に、額に、頬に耳に軽いキスを落とす。片腕で臨也の腰をしっかりと抱き寄せ、もう片方の手でうなじの窪みをつうと撫で、そのままさらさらの黒髪に手を埋めていく。


「臨也」

「……っ、…」

「臨也」


耳を甘く噛んで、先程と同じように顔中にキスを落とす。すると臨也はふふ、と小さく笑って身を捩った。擽ったい、やめて、と小さな手が胸板を押す。臨也の髪から埋まったままだった手を抜き、胸板を押す手を掴む。細い指を俺の指に絡ませ、折ってしまわないようにそっと力を込め臨也の手を握ると、臨也の手が、指が、きゅ、と握り返してきた。それに心臓まできゅう、と握られたような気がして、あったかい気持ちになって、幸せに包まれる。

幸せすぎて心臓がいたい。我慢できずに臨也の笑みをつくる唇に噛みついた。

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あきゅろす。
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