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「ゴホッ、…ゴフッ」

布団の中で咳が止まらず、目に涙を溜めて一人躯を丸める。一昨日に雨の中帰ってきたのが今頃効いてきたらしく、吉継は風邪をひいた。あまりの馬鹿らしさに、小さく笑うもすぐさま咳をする。元々強くない躯は抵抗力も低い為、このように風邪を拗らせるのもいつものこと。そういう時は寝ているに限ると思い、一日を睡眠に費やす。だけれど、頭痛が酷くとてもじゃないが寝ることは出来ない。

「難儀な、躯よ。」

苦しさのあまり、愚痴をこぼす事も毎度のことである。ただひたすら時間が経過するのを吉継は待った。

 数刻経った頃、汗が滲み出てきて気持ち悪い。眉を顰めながらも、ゆっくりと上体を上げる。そして薬を飲もうと、立ち上がろうとした。

「……ッ」

強烈な目眩と頭痛が起こり、吉継はその場で倒れ込んだ。布団があったため痛みはなかったが、あまりの無能な躯に嫌気がさす。たった一人で生きていくことはこれ程までに大変なのだろうか。

熱に浮されながらも考えたが、体力の限界がきたらしく睡魔が襲ってきた。それに抗おうともせず、吉継はゆっくりと目を閉じた。






「三成。今日飲みにでも行かないか?」

仕事を終えた三成は、突然の家康の申し出にきっぱりと断った。家康は少し残念そうな表情を浮かべるも、すぐ笑顔になりまた明日と言って何処かへ行った。
三成は仕事をした後はすぐ家路につき、暗い夜道を一人歩く。いつもの道を通り、繰り返し同じ日を過ごす。今更変えようともしない生活パターンは心地よく、明日に備えて準備をしなければと思う。
しかしそれは単調で、誰かは詰まらない奴だと言う。

だが、己自身どうでもよいことなので無視している。なのだが、暗い夜道に目の前を杖をついて歩く一人の男に三成は駆け寄った。
「貴様は、」

一昨日にあったばかりの吉継に足が勝手に動いた。一目見た時から弱々しいと感じていたから、心配していたがこんな場所で再開できて嬉しくなる。一方吉継は、熱が酷くなったので病院に行こうとしていた。その夜道にまさか三成と会うとは思わず、正直驚く。熱に浮されたせいもあり、段々と意識が朦朧としてくる。

「これは、また会うとは。すまぬが我は、ちと用があるのでな。これで」

三成の顔見ず、速く此処から去りたくて歩みが自然と速くなる。だが、三成は吉継の腕を掴んで引き寄せた。

「……なっ!?」

突然のことで足が縺れ、倒れ込むかのように三成の胸に飛び込む。一体何なのだと思うが、前世の事もあり、まぁいいかと思った。
 三成は三成で、躯が熱い吉継に対し何故か気が利ではなかった。

(これは何だ?何故こんなにも苦しいんだ?)
細い躯に、骨張った肩。苦しそうな息遣いに、顔を歪める。

「大丈夫か。貴様、熱があるのだろう。この時間はどこも病院はやっていない。」

「さようか。ならば家に帰って寝るとするか」

「待て。私が送る」

吉継の手を掴んで、歩き出す三成に足がついて行けない。それに気付いた三成は、足を曲げて地面に膝をついて乗れと言う。大の大人が、背中に乗るのは気が乗らない。想像するだけで、滑稽な姿が思い浮かぶ。一回断るも、三成はムッとさせ無理矢理吉継を背中に乗せた。元々足が弱かったのだから、楽だと言えば楽だが、まさかまたこうしておぶってもらえるとは。懐かしい。心中で呟き、自然と笑みが零れる。そうして、もたれ掛かるようにして吉継に案内されながら、三成は吉継の家まで歩いた。


行く途中、三成は仕事の事を中心に話し、吉継は耳を傾ける。今生を生きる三成はよく笑う。それはあの男のせいかと苦笑するも、この男が幸せならと目を細めて三成の背中にもたれ掛かる。


 己が側に居ない事は三成は幸福なのだと、改めて思う。


暗闇がまどろむ感情で、自然と唇が吊り上がる。









続く






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