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悲しい顔《家→三吉》




豊臣時代の頃のお話

家→三吉






時折見せる笑みに、何と無く察していた。



 吉継は病んだ躯を動かして久しぶりに部屋から出た。普段は決して外から出ることがない吉継だが、今日は躯の調子がいいらしく廊下に座り、外の風景を眺めていた。

すると何処からか、ドタドタと煩い音を立ててこちらへ向かって来るのが分かった。
他の場所から離れの庭である此処へ来る変わり者は、友である三成と───…。

「刑部!!」

爽やかな笑顔。
わざわざこんな場所にくるのに、相も変わらず律儀な男だと吉継は思う。

「やれ、此処へ来るなど主は変わり者よ。」

「刑部殿、今日はお体の調子は…」

「今日は調子がよい故、こうして外に出ているのよ。」


日輪を浴びるのは躯に毒だが、運が良いのか空を見上げれば曇り空が広がっている。暑くもなければ、寒くもない気候に頬が緩みそうになる。(頭巾に隠れている故、誰にも見られる事は無いが。)




 ふと家康を見れば、誰にも気付く事のない違和感を、吉継は感じた。


「…徳川殿。」

「ん?何だ、刑部殿。」
あどけなく笑う家康に、言わねばならぬ事がある、と小さく言う。それに対して、特に驚くこともなくいつもの笑顔。

 稀にだが、此処へ来る家康はいつも空を眺める。何処か遠い所を見ているようで。

まるで───…。


「刑部ッ!!」

突然甲高い声が廊下によく響き渡り、その声の主を見れば眉を吊り上げている。
般若の如く迫り来る三成は吉継の名を呼ぶも、何故か家康に詰め寄った。

「貴様ァアアアア!!自室に居ないと思ったら、刑部の部屋でッ!!」

「三成、落ち着け。ワシはただ刑部殿に相談を…」

目を見開いて家康の胸倉を掴む。問答無用で荒々しく揺さ振る様子を見て、吉継はホッと一息つく。
 三成はあまり人と接する事が無い。いつも一人で居るか、吉継の部屋に来るか、2つに1つの選択。そんな友人に心配し、新たに友らしき人物が出来ぬかと心配していた。その矢先に三成を理解する者が現れて、吉継は安心していた。

しかし、それは吉継が思っているのと異なっていた。


(焦がれた、と言うべきか。)

様子をこそりと見てみると、家康の目には慕情で溢れるている。それは三成に対するもの。

しかし、三成には全く気付いていない悲しい事実。
 吉継は家康の思いを三成に伝える気は全くない。

何時かは三成に思いをぶつけ、共に歩んでくれる事を願っているが。病に伏せているこの身では、三成の枷になってしまう。
それを酷く嫌悪していた吉継は、己の浅ましい気持ちに蓋をした。健常であれば、三成と共に歩もうと強く思えた。

それも現在では、何時寝込むのか分からぬ面倒な躯になった。
何れは三成から大谷吉継と言う存在を薄らせ、そしてひっそりと消えようかと。そんな考えが最近頭を過ぎり、悩んでいる。



「家康ッ!!何故貴様が刑部の隣にいた!!?」

「ワシはただ、刑部殿に相談を…」

「私の許可なく刑部の傍に居る事は許さない!!」


 先程から怒鳴り声が耳にやたらと響き、耳を塞ぎたくなる。話が噛み合ってない上、病人の前であるのに。吉継は二人に気付かれないように、自室へと戻って行った。









続く

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あきゅろす。
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