宝物庫
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あの日の事は、よく覚えている。
満天の星空の下で、僕と彼女は手を繋いでその幻想的な夜空を寝転がって眺めていた。
"ねぇ"
彼女が静かに僕に声をかけた。
"何?"
"なんか、すごいね"
"そうだね"
"すごいしか言えない。感動して涙が出た"
"でも気持ちは伝わるからそれでいいんだよ"
"そう言うものなの?"
"そう言うものだよ。言葉なんて要らないんだ。涙でどれ程すごいのかよく分かるしね"
"それって私の事?"
"例えだよ、例え"
"何それ"
そう言って笑う彼女の笑顔が夜空よりも輝いているように見えた、なんて言ったらきっと笑われるだろう。
だけど、彼女の笑顔が見られるならキザな事を言ってみるのもいいかもしれない。
"そのままずっと、僕の隣で笑っていてよ"
"それって・・・!?"
彼女が言い終わる前に、僕は触れるだけのキスをした。
彼女は繋いだ手を優しく握り返してくれた。
"ずっと一緒だよ!"
"・・・ずっと一緒だ・・・・・・"
"あの日見た、空を覚えてる?"
僕は彼女にそう聞いた。
彼女は微笑むだけで声は発しない。
だけど僕はそれだけでもよかった。
彼女はちゃんと、覚えていると微笑んで答えてくれたのだから。
空に無数の星が散りばめられていて、満月は妖しく輝いていた。
あの日の夜空を、彼女ともう一度見たくなった。
あの日の彼女の嬉しそうな顔が、もう一度見たくなった。
"ねぇ、もう一度見に行かない?"
あの幻想的な空を・・・。
僕がそう言えば、彼女はまた微笑んで答えてくれた。
"今から行こうか"と手を差し伸べても、彼女は立ち上がらない。
ベッドに横たわったまま動こうとしない。
"行かないの?それとも行きたくない?"
そう聞いても、微笑むだけで返事はない。
手を握っても、握り返してくれない。
それどころか冷たくて、氷のようだった。
解ってる。
彼女はもう・・・・・・動かない。
古い思い出にしがみつき、遠い過去に浸る僕は哀れであり愚かなのだろうか。
愛する者を目の前で失っても尚、泣けない僕は薄情者なのだろうか。
長いトンネルのように、先の見えない今を生きている僕は惨めなのだろうか。
答えが知りたくて、がむしゃらに叫ぶ僕は気が狂ったのだろうか。
彼女の笑顔がもう二度と見れないと知った今、涙を流している僕は遅すぎるのだろう・・・。
"・・・・・・ごめんな・・・!"
もう届く事のない彼女に、謝罪と別れを込めた言葉しか出なかった・・・。
*幻想*
それはとりとめのない想像。空想。
(夜空なんて見てない。見たのは彼女の泣き叫ぶ顔・・・・・・僕が彼女を・・・)
Fin
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