宝物庫 ページ:4 そして、杏榎が指定をした三日後。 虹の丘には三人の姿があった。 それぞれ、封筒を手にしている。 その中に杏榎の姿は見当たらない。 「早目に来すぎたかな?」 シノは腕時計に目を落としながら、心配そうに零した。 「五分前行動は基本でしょ」 大木の根元に座り込んでいるカリナが微笑みながら言った。 「いつもギリギリだからな、あいつ」 苦く笑いながら、ヒサが言った。 「昔から、そうだったね」 彼の言葉にシノは柔和な笑みを浮かべた。 「変わってないみたいね」 クスクスと彼女が笑いを漏らした。 「本人の前では言うなよ」 ヒサの言葉に、二人は笑顔で頷いた。 その時。 「おーいっ!」 元気良く丘を駆け上がってくる少女の姿。 見慣れた姿に三人は手を振った。 「みんな早いよ」 息を弾ませる彼女にカリナは意地の悪い笑みを浮かべて、先刻の言葉を繰り返した。 「あら、五分前行動は基本でしょ?」 「先生みたいなこと言わないでよ…」 肩を落とした彼女の姿にカリナは満足そうに笑った。 そして、三人は杏榎が手にしている物に気がついた。 それは、四つの風船。 紐に繋がれてフヨフヨと左右に漂っている。 「それ何?」 疑問を口にしたのはシノだった。 残りの二人も同意するように風船を見つめた。 「風船だよ」 彼女はズレた答えを返す。 そして、得意げに言葉を続けた。 「これで、手紙を由多に送るの」 彼女の考えている意図が理解できた三人は、それぞれ顔を見合わせて笑った。 「杏ちゃんは、本当に…」 クスクスと笑みを零すカリナ。 タイムカプセルを作ろうとした時も実行したのは、杏榎と由多だった。 好奇心の赴くままに無謀な挑戦をしていた。 時が進んだ今でも、それは変わらないらしい。 「失敗したらどうすんだよ」 杏榎から手渡された風船を見ながらヒサは言った。 しばらく考える仕草をした彼女は結論を口にした。 「その時は、その時だよ」 「だろうな」 予想通りの言葉に彼は苦笑を零すしかなかった。 それぞれが風船に手紙を括り、手に持っている。 「せーので放そ」 杏榎の言葉に了解と三人は頷いた。 「せーのっ!」 言葉と共に四つの風船が空に舞い上がっていく。 「飛んでったな」 ドンドン小さくなっていく風船を見送る。 「届くかな?」 カリナは誰にともなく問いかけた。 「届くよ」 「どんな根拠だよ」 彼女の無責任な言葉に、彼が苦笑しながら返す。 「諸槻が言うと、そんな気がするな」 そう言って、シノは風船から視線を外し、彼女を振り返った。 「本当っ!」 彼の言葉に嬉しそうに目を輝かせる杏榎。 「連絡取って、また会おうか」 カリナの提案に三人は頷いた。 「由多が会わせてくれたんだもん」 四人は見えなくなった風船を一度だけ見上げ、虹の丘を後にした。 十年前 一人の想いが繋いだ 白い手紙 紡いだのは四人の友人 長い年月を経て 絆は再び 紡がれた 【終】 [*前へ][次へ#] [戻る] |