19.寂しがる
万事屋へと顔を出したついでの事。
私は前々から疑問に思ってた事を聞いてみた。
「そういえば銀時ってさ、たまーに酔っ払って朝帰りしてるよね?」
「ぶはぉあぁぁっあ!? ……ンだよ突然」
飲みかけたいちご牛乳を噴水の如く噴き出しつつも、真顔かつ自然な口調で切り返してきた銀時さん。
新八君に至っては雑巾を探しに席を立ったまま…帰ってこない。
なんだか良く分からないが、聞いてはいけない事を聞いてしまったみたいだ。
…夜遅くまで仕事お疲れ様、と。
でも飲み過ぎは身体に悪いから気を付けて、と…そう切り出したくて話振ったのに。
私は取り合えず固まった空気をどうにかしようと、慌てて笑顔を取り繕った。
「いや、ちょっと気になっただけだから。別に無理して言わなくても大丈夫だからっ。私には言えない事情とかあるだろーし…」
「全然大丈夫じゃねェだろーが、コノヤロー! 何だよ“言えない事情”って!!」
さっきとは打って変わって、銀時の眉間には皺が寄った。
……むー、なぜだ。なぜ怒られる?
私はてっきり依頼者の守秘義務的な事で言えないのだと気を回したのに。
「銀時? 何か勘違いしてるって」
「勘違いしてンのはオメーの方だよっ! 俺ァ言えねェ事なんざ何もしてねーよ!!」
「そ、そんな怒らないでよっ。別に銀時が何しようと、私は全然構わないから……って?」
「……」
……。
──間。
銀時の身体…表情全部、なぜか固まったまま動いてくれない。
同時、ふと気付けば…更に部屋の空気が凍り付いた気がする。
「そ、そーいえば新八君っ。遅いねっ」
私は耐えるに耐えきれ無くなってしまい、不自然ながらも助け舟を出した…のだが。
ふと台所付近へと視線を移せば、隠れきれてない新八君のメガネがちらほらと見えるだけで。
……こっ、これは一人で切り抜けろとゆー事ですか。
私が冷や汗一杯浮かべていたのも束の間、銀時の唇が…おそるおそる動き始めた。
「…俺、何かしたか?」
「…いや、何もしてないけど?」
…なんで、そんなに真顔?
私は不思議に思いつつも素直に首を振った。
だけど、銀時はその答えに納得していないのか…ぐいっと顔を寄せてきて。
「オメー普通なフリしてよォ、ホントは遠回しに怒ってんの?」
「……? 怒ってるのは…銀時じゃないの?」
「……」
銀時は考え込む様に、一瞬口をつぐんだ…が。
「夕霧。……ヤキモチっつーの、知ってるか?」
何かに気付いたかのように、突然質問を変えてきた。
やっぱり意図が良く分からないままなのだが…取り合えず、力強く頷いた。
「うん。嫉妬する的な意味でしょ?」
「いや、そうなんだけど。オメーは…その、焼いたりしねーの?」
「…飲み屋に焼くの? お酒に焼くの?」
「ばっ、違ェって! ほら、俺だって長谷川さんの付き合いやらで仕方なく…スナックとかよ、行ったりするじゃねーか」
「…そっか、スナック…か。なんだ、仕事じゃなかったんだ」
…まぁ、半分はそうだろうなとも思ってはいたのだが。
何はともあれ、ちゃんと息抜きも出来てるみたいで一安心…
「いや、仕事帰りに一杯っつーのもあるンだけど。ってか、銀さん浮ついた心とか持ってねーから。オメーがそんなに不安がる事なんざ、全く必要ねー…」
「……?」
「……いや、なんでもねェ」
勢い良く喋り始めたと思えば銀時は私の顔を見るなり……ワザとらしく、肩を落とした。
…いや、たぶん、この項垂れ具合はワザとだと。
頭の中で冷静に突っ込んでたのとは裏腹に、口は焦って言葉を探してた。
「し、心配はしてるんだよ? 飲み過ぎも身体に悪いし」
「おまっ、身体だけかよ? 俺本体は?」
紅い目をした兎さんとでも言えばいいのだろーか。
そんな哀愁漂う視線が私の方へと訴えかけてくる。
…んだけど。
「本体って何の!?」
台詞をマトモに受け取った私は、エリーの中の人を連想する事ぐらいしか出来なくて。
銀時は銀時で、纏うオーラがどんどん虚弱になってゆくしで。
……うーん、埒があかない。
私はずっと疑問に思ってた事を、改めて投げかけた。
「ねぇ、銀時。……結局、これって何の話だっけ?」
『──寂しがる』
「……。俺ァ分かりたかねーよ」
銀時は拗ねたように、飲みかけのイチゴ牛乳へと口を運んでは。
「──…はぁ」
大きな大きなため息一つ、万事屋一杯に広がった。
──了──
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