15.待つ

──季節が、変わる。

私は窓から流れる冷たい夜風に身を委ねながらも、そんな事を感じてた。

晴れ渡った月の夜空。

遠くで小さく鳴く虫の声が、何故だか胸を締め付けて。


「……夢、か」


不意に目を冷ませば、頬が涙で濡れていた。

…悲しい悲しい夢だった。

近くに居るのに、手を伸ばしても触れる事が出来なくて。

夢から覚めれば…独りの空間。


*****


思い起こせば、一人江戸に来てから随分と月日が流れていた。

銀時やヅラ達に再開出来て、真選組に身を置いて…色んな出来事があって。

目まぐるしく過ぎ去っていく日々に……盟友との別れ。


「……っ」


楽しい事も多いのは確かだ。

だけど…辛い事の方が、強く心に残るのも確かで。

ふと、月明かりの中で私はそっと目を閉じた。

──瞼の裏に映るのは、淡い銀色の光。


「……銀…」


思わず零れた彼の名前。

長く短い時間に、沢山の選択肢。

でも…その中で、私は貴方の隣を選んだんだね。


「……」


…想えば想う程、膨らんでいく気持ち。

何故だか、今度は笑みが零れてしまった。

遠く離れていても。

声を聞く事が出来なくても。

──その微笑みが、そっと背中を押してくれるから。

だから…だから私は、明日からも…


「…また顔を上げて、一歩を踏み出せる」


ゆっくりと瞳を開ければ、空には丸い月が浮かんでた。

…暗い気持ちは全部全部吐き出して。

私はこの先もずっと──

──貴方と同じ様に、強く輝き続けたい。



『──待つ』 



季節に取り残されたような錯覚の中、たまに“明日”が来る事を拒む自分がいる。

だけど…明日が来なければ、貴方に会えないよね。


(……よぉ、夕霧)


私を見つけては…ふわりと微笑む、あの表情。

今も昔も、何があっても変わらなかった笑顔。


「…私もきっと、いつかは……」


……そうだよね。

過ぎ去ってしまった辛い事や悲しい事。

一人で悩んでいても、答えなんて出てこないから。

だから私も、貴方が微笑むように。

今は弱々しく、頼り無いかもしれないけど。

…一緒に笑って、同じ“明日”を望むんだ。

遠回りしても、立ち止まっても、振り返っても…

──この歩む足だけは、絶対に止めたくない。

…顔を上げれば、月の光が眩しくて。

あの輝く淡い銀色に、少しでも近付けたような気がした…透き通った宵の一晩。



──了──



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あきゅろす。
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