カイとソウ《2》
*
ベッドで寝転がりながら雑誌を見ていたらうたた寝していたらしい。
少しだけ休憩と思っていただけなのに。
恢の部屋の恢のベッドは気が緩んでしまうみたいだ。
ふわふわと髪の毛を梳く柔らかな感触に目を開ける。
「おはよ、そーた」
甘く蕩けたような瞳が僕を見ている。
「かい…」
「なぁに?」
長い指と大きな掌の感触が気持ち良くてねだるようにくっついてみた。
「…もっと?」
「ん」
甘やかしてくれる恢は楽しそうに笑っている。
ほぅ、と息を吐くとゆらゆらと視界が揺れる。
「眠い?」
「すこし…でも、きもちー」
ベッドが揺れて恢が隣に横になる。
「今日は甘えん坊だね」
抱き寄せられて近くなった体温が心地良い。
「あー、かわいー…」
瞼に触れる唇が優しい。
「あのね」
「うん」
ちゅ、と吸われた唇。
目を開けたら切れ長の目が笑んでいる。
「ヤスが寂しそうだったよ」
「……そっか」
「ん」
撫でるようなキスにまた目を閉じる。
「潤也も静かだったな」
ずっと一緒に居た幼馴染みでも不安になるんだ。
「そーたは?」
「寂しかったよ。でも」
唇をくっつけて、舌でなぞるように舐めた。
「いまは寂しくない」
恢が隣に居るから。
「でも、来年の今頃は屋上で弁当食べることはないんだなー、と思った」
「そうだね」
「制服姿の恢も、ね」
「そーたの制服姿もだ」
制服を着ている恢はやっぱり高校生に見えるし、何より同じ場にいる証のようで嬉しいから。
「……格好良いと思っていたんだ」
なにが?、と聞く声が唇を撫でる。
キス…しながらの会話は甘くて優しい。
「ん…、恢を初めて見た時にそう思った」
廊下に立つ姿は格好良くて、自分とは関わらない世界の人だと思っていた。
驚いたような表情がなんだか意外。
「恢?」
頬を撫でて切れ長の目尻に触れる。
「びっくり、した」
「え?」
ぎゅう、と抱き締めて首筋に埋まってしまった顔。
真っ赤だったよ。
「ずっと…、ずっと、そーたを好きだって自覚するずっと前から」
どきどきと心臓が跳ねるのは、恢の心臓が跳ねているから。
恢のどきどきが移ったみたい。
「そーたに俺を見て欲しかったんだ」
「か、ぃ…」
「そーたの瞳に写りたかった」
薄い膜を張ったような現実感の乏しい世界は当たり前だったから、見ても触れてもどこか遠くて。
でも、その状態が楽で。
そんなどこかぼんやりした世界に居た僕の記憶にしっかり刻まれていた恢の姿。
同じ学年だったけど遠くの世界の人で話したり触れたりなんて想像すら出来ない。
そんな人だったのに。
今はもうこんなに近くにいる。
「学年首席で悪い話なんて一個もなくて、真面目だけど固くなくて…でも掴み所がなくて。そんなそーたに俺を見て欲しかった。俺を意識して欲しかった」
恢が僕を好きだと言ってくれる。
でも、そういえば何時からとか切っ掛けのようなものは聞いたことなかったかも。
今、ぽつぽつと零れる言葉は初めて聞くこと。
「そーたが入学式で挨拶したでしょ」
「新入生代表?」
「うん、それ」
あれは定型文みたいなのをちょこちょこ弄って整えたもの。
緊張はした…ような。
したけど、どこか他人事だった。
「そーたの顔は見えなかったけど、声が」
「声?」
「そう、声。いいなぁと思ったよ」
心地好くて聞いていたい声だった。
そんな風に囁かれて顔が熱くなる。
「もう、最初からそーたのことが好きだったんだ」
「恢…」
「そう、思う」
急激に落ちた恋心ではなくて、じわじわと浸透するように深くなった恋情。
だから簡単には消えないよ。
低い声がそう言った。



[*back][next#]

2/6ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!