カイとソウ《2》
*

離れたくない。


恢の強い眼差しとか、抱き締める腕の力とか。
そのままいつもみたいに求めてくれる恢を理由に流されてしまいたい。
そうすると僕が一番簡単で心地好いから。
楽、だから。
でも。
だから、こそ。
それは駄目なんだと思う。





噛みつくみたいにキスをして、ベットに沈んでしまった体。
ただ好きなだけだから。
そんな言い訳がぐるぐる回って、恢を止めなくちゃいけない手が弱まる。
さっきの電話のことを聞かないといけない。
そう思うのに。
「っ、ん…ァ…、かい…フあ…っ」
顔を逸らそうとしたら掌に挟まれた。
言葉は恢の舌に拐われてしまう。
ぐ、と肩を押した。
「んっ、ぁ…か…ぃ、恢…ッ…んんっ」
挟まれた頬は片側が解放されたけど、そのまま後頭部から固定される。
強く吸われた舌からぶわっと広がった熱。
もうこのまま流されてしまいたい。
未来とか、約束とか、全部…見なかったことにして。
欲しいから。
恢だけを、今この時は。
僕だけを見てくれるから。






──そーたと一緒に居られるように、頑張る

──僕も頑張る





滲んだような思考がパチンと音を発ててクリアになった。





僕が…そう、言ったんだ。
この部屋で。
恢と一緒に居られるように。
隣で生きていけるように。
恢を、守れるように。
恢が安心して休める場所になれるように。
熱い瞳に見つめられて。
恢と僕と、ふたりで。



先ほど押した肩を撫でる。
それから恢の項を指で撫でる。
小さく跳ねた恢の肩。
それからさらさらとした髪の毛に指を絡めた。
ぎらぎらとした光を放つ切れ長の目が瞠目する。
言葉も呼吸も奪うように重なる唇が微かに離れた。
渦巻くように乱れた息が響いて、それだけにキスの激しさをぼんやりと実感する。
「そーた…?」
掠れた声は本当に小さくて空気に溶けてしまいそう。
僕にとって、ぴったりと寄り添うことが心の安定を保つものだから…
だから恢はそうしてくれる。
僕の欲を優先してくれる。
恢の髪の毛に絡めた指を動かす。
恢がしてくれるみたいに優しくそっと撫でた。
「槇原さん、は…何て言ってた?」
ひゅ、と小さく息を飲む音がした。
「僕と、電話で話してた時は」
まっすぐに僕を見る瞳はゆらゆらと揺れている。
「仕事…だったん、だよね」
微かに聞こえた音楽は撮影中にかけていたものかもしれない。
そもそも恢一人だけの気配ではなかった。
僕のために、恢は一人になってくれたけど。
「……抜けたら、ダメだったんだよね」
考えるまでもない、そんなこと。
「そー、た」
寄った眉間のシワが答えだ。
本来、そんなことは許されることではないのは明らかで。
「ごめんなさい」
さっきも口にした言葉。
でも、きっと意味が違う。
「恢の大切な時間を横取りしたよね」
浅ましいほどに幼稚な独占欲で。
「そーた、ちが」
「違くないよ」
僕と一緒にいるために努力してくれている恢の心を蔑ろにすること。
僕がしたことは、そういうこと。
放置してあったケータイを探す。
ベッドの下に転がるそれを見つけて手を伸ばした。
「そーた」
低くなった恢の声。
一瞬止まってしまった手を動かしてケータイを拾う。
時間を確認して唇を噛んだ。
「………間に合うかな?」
恢と電話で話してから3時間以上経っていた。
「そーた」
「戻って、槇原さんに会って」
切れ長の目がまたぎらりと光る。
「できるだけ早く」
きっと時間を開けない方がいい。
「そーた…っ」
肩を掴まれた。
いつもは加減してくれる力は無くて、じりじりと痛みが広がる。
「自分勝手でごめんなさい」
体を起こすと一緒に恢も体を起こす。
しっかりとした肩に手を置く。
「僕がふらふらしていて、恢に心配かけた」
「だからそれはっ」
「恢の周りの人にも、迷惑かけた」
「そーた!」
触れる肌から溶けてしまいそうなほどの安心感。
離れたくないのはホント。
「僕はもっと大人にならないとだよね」
恢の傍に居るために。
ずっと、居るために。
「なるべく早い方がいいから」
ベッドから降りて震えそうな足を動かす。
服を身に付け、恢の着替えを出す。
「……駅まで、一緒に行こう」




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