カイとソウ《2》
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ローションが垂れていく。
ボタボタと音をたてながら、シーツの上にシミを作る。
腰から二つに折り曲げられた体は恢の熱塊を飲み込んで、いやらしい音をさせている。
霞んだ視界に揺れる恢の顔。
眉間に寄ったシワと、時折漏れる艶っぽい声。
僕で感じる恢を見るのは、恥ずかしいけど満たされて安心する。

…いつもは。


体は怖いくらい感じているのに、置いていかれそうな気配に心が焦る。
「…ヒ…あ、ぁあっ、や…ゃあ…っ」
だからなのか、上手くいかない呼吸に頭がくらくらする。
吸っても吸っても足りない酸素に口を開けると情けないくらい掠れた声が漏れていく。
目を閉じると瞼の裏がチカチカと明滅する。
白やら赤やら黄色やら、なんだかいろんな色が見える。
それが怖くて瞼をこじ開けるように開くと恢と目が合った。
「……ぃ…あ…、か…ぃ」
痺れるような指先を持ち上げて恢の肩に触れる。
その触れた肌の感触が心地好くて、頬が緩んだような気がした。

笑ってくれるのに。

いつもだったら、僕を見て甘く蕩けてしまいそうな笑みを向けてくれるのに。
驚いたように目を丸くして…
「は…っ、あ……ひぁ…」
びくり、と跳ねた体から恢が勢い良く抜け出していく。
「やっ、やあ…だっ!」
そんなのは嫌で、引き止めるように恢の肩にしがみついた。
「そーた!」
それでも引き抜かれてしまったソレを欲しがるように収縮を繰り返す襞たち。
「ぅ…ん、んっ」
どうして、という言葉は恢の唇に吸い込まれていった。
それから長い指が僕の鼻を摘まんでしまう。
恢の瞳が怖いくらい真剣で、でも息苦しさに肩を叩いた。
離してくれない。
それどころか、恢の吐く息を送り込まれた。
「ぅんーっ、んっ、んんっ」
がっちりと固定されているみたいでこれっぽっちも動かない頭。
わけがわからなくて、混乱しそうなのを辛うじて保っていられるのは恢の瞳が僕を見つめているから。
「ぅ、ん…んっ」
滲んだ視界に恢の眉間にシワが寄る。
苦しい。
苦しい。
苦しい。
ぎゅ、ときつく目を閉じて指に触れた恢の腕を握る。
「ふっ、ゥあ…あ」
ヒュウヒュウと喉が鳴る。
頭が痺れたような感覚が薄らいで呼吸が出来る。
「そーた」
恢の長い指が頬を撫でる。
その優しい感触はそのまま目尻を滑って前髪を掻き上げた。
「ごめん、無理させた」
「恢…」
くしゃくしゃと前髪を掻き混ぜて整える。
額を撫でた唇が瞼に落ちて唇に触れた。
「今日は止めよう」
僕をまっすぐに見る恢の瞳。
「な、なん…で」
どうして。
だって僕もだけど、恢もイってないのに。
「今日は、もう、無理だよ」
優しい声が宥めるように言う。
でも、その声に掴み所の無い不安を感じるのはどうしてだろう。





駄々を捏ねるように嫌がったのに、手際よく体を拭かれて風呂場へ連れて来られてしまった。
確かにさっきは風呂に入りたいと言ったけど…
「恢のばか」
呟きはシャワーの音に掻き消される。
あんな風に強引にコトを進めたのに。
逃げ道を塞ぐように触れてきたのに。
いつもより乱暴に髪の毛を洗う。
全部のことがわかるようになるとは思ってない。
本当の心の裡なんて、自分のことですら良くわからないんだから。
それでも知りたいんだ。
恢のこと。
恢が何を思っているのか。
恢がどういう風に感じるのか。
「俺を、見てよ…かぁ」
今の僕は恢を見ていないのかな。
確かに僕の瞳には恢が居るのに。


風呂から上がった僕を見る恢はいつもと変わらないような気がした。
「そーた」
僕の名前を呼んで、その腕に抱き締める強さも。
なのに、どこか…
奥深くがひやりと冷える。
触れた肌からは恢の体温が伝わるのに。
「恢」
「ん、なぁに?」
こめかみからしたキスの音。
恢はこんなに近くに居るのに。
「どうして、さっき」
しっかりとした肩に額をくっつけると、恢の指が後頭部に潜る。
「そーた、過呼吸起こしかけてたから」
「ぇ…あ」
痺れたような指先はそのせいだった?
鼻を摘まんで口を塞いだのは、過呼吸を悪化させないため。
あんな風にした理由はわかったけど。
でも。
まだアソコは恢の熱さを覚えていて、もっと焼き切れてしまうほど擦って欲しかった。
恢を欲しがって疼く体は浅ましくていやらしい。
「今日は疲れたでしょ?」
眠るように促す言葉に頷いたけど。
喉の奥に大きな塊が引っ掛かったような息苦しさ。
それを取り払うことができなくて…
吐いた息が震えた。


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あきゅろす。
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