カイとソウ《2》
*

苦しいと思う。
もっと温かくて甘くて、穏やかな気持ちになるんだと思っていた。
だからこそ、失った時の喪失感は深いのだと。
そう思っていたんだ。


人を好きになる、ということ。






──────

恢と繋いだ手。
絡めるように握られた指。
触れて流れ込む体温が心地好くて、そっと息を吐いた。
マンションの駐輪場にバイクを置いたら、ちょっと買い物と言われてコンビニへ向かっている。
所謂路地裏だからか、誰かと擦れ違うことはないみたいだけど。
「なぁに?」
「…手、見られたら」
「大丈夫」
薄暗い外灯の下だというのに、恢の笑顔は甘くて…格好良かった。
「恢…」
「俺ね、けっこうベタなことが好きみたいだよ」
「え?」
「一緒に帰るとか、並んで座るとか、……手を繋ぐとか」
絡んだ指先が持ち上げられて恢の唇が触れる。
すぐに離れたそこから広がるのは、じんわりとした甘い痺れ。
小さく背中が震えて顔が熱くなっていく。
吐いた息が熱くて、思わず唇を噛み締めた。
「キスも好きだし」
繋いだ手と反対の手が頬を撫でて包む。
「セックスも好き」
近付いた恢の瞳に動けなくて見つめ返す。
「でも、全部そーただから」
掠めた唇はすぐに離れた。
そこに触れたい。
もっと、ちゃんと。
「エロい顔」
「恢、だっ…て」
たったそれだけ。
それだけなのに、体の奥が疼いてしまう。
包んでいた頬を滑って後頭部に回った恢の手。
撫でるように触れた頭皮からざわざわと波立つような感覚。
「そんな誘ってると、ここでシちゃうよ?」
潜めた低い声が耳朶を掠めていく。
「だ、め…っ」
恥ずかしいことを言われて喜ぶ僕の体は浅ましいと思う。
だめ、なんて言ったのに疼く体が我慢できなくて恢の胸に縋りついた。
一瞬、動きを止めた恢。
小さく唸るような声を漏らすと噛みつくみたいにキスされた。
「…ンゥ…んっ」
あっという間に拐われた僕の舌は恢の舌が絡まって吸い上げられる。
舌の付け根を舐められる音が路地に響く。
小さな水音と荒くなる呼吸。
漏れてしまう声は羞恥を誘うほど甘ったれていて…
「は…ぁ、もぅ、かわいーなぁ」
そう言って、離した唇を長い指が軽く撫でた。
「買い物中止」
「え?」
「そーたがかわいーから」
絡んでいた指を強く握ると今度は足早に元来た道を戻っていく。
「恢」
「ん〜?」
振り向かない背中。
その背中に触れて、抱き締めたい。
僕のだよ、と。





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あきゅろす。
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