カイとソウ《2》
*
借りもの競争から戻ってきた恢は僕の肩に頭を乗せて昼寝中。
それを見た石崎は呆れた顔で溜め息を吐く。
「甘やかしすぎだろ」
そう言って、でも無理矢理起こしたりはしなくて。
ふわふわと漂う柑橘系の香り。
それが心地好くて穏やかな気持ちでグラウンドを眺めた。
「箏太クン羨ましすぎー!」
「いや〜っ、私と代わって〜!!」
「恢くん可愛いよぉ」
体育祭だろうとばっちりメイクの女子たち。
きゃあきゃあと騒ぐけど、声は潜めている。
うるさいと恢が嫌がるからなんだよね。
「あーっ、もう!箏太クンの肩になりたいっ」
覗き込むように恢の寝顔を見つめるのは側に寄ってきている女子だけじゃない。
少し離れた席に座っている女子もこちらを見ている。
「……さい」
低く唸るような声が耳元でした。
「恢?」
小さく身動ぐと欠伸をして体を起こす。
急に軽くなった肩になんだかバランスが取れなくてふらふらする。
「うるさい」
呟いたような言葉だったけど、周りにいた女子たちは固まってしまった。
機嫌の悪そうな表情も相俟って近寄り難いオーラを発している。
なんとなく助けを求めるように石崎を見たら呆れたように笑って、ひらひらと手を振っている。
「ぇー…、え?」
パクパクと動く口。
「あ、うん」
「…そーた?」
こちらを見た恢の膝を叩いて立ち上がる。
「行こ」




校舎の中はひんやりとしている。
本当は一階のトイレ以外は立ち入り禁止。
「どこいくの?」
「決めてないけど…」
要するに恢と二人きりになれれば良いわけだから。
階段を登っていると指に恢の指が絡んでくる。
誰もいない階段は僕と恢の足音が響く。
「そーた」
軽く引っ張られた指。
その指をそのまま握り込まれた。
恢を見たら小さく笑って反対の腕に抱き締められる。
温かな腕の中で体の力が抜けた。
背中に手を回すと恢の顔が近付いてきて、擦るように唇が触れる。
それを数回繰り返すと顎に触れた指が上を向かせる。
少し顔を横にずらした恢が近付いて来るから目を閉じたら唇を擽る吐息。
「かわいー」
そう呟いて何度も啄む。
ちゅ、ちゅ…ちゅ。
階段に響くキスの音。
グラウンドから聞こえる歓声が遠くて隔離されたみたい。
「口開けて」
「ン…」
唇を撫でる言葉に隙間を開けた。
覆うように包まれて、舌が侵入する。
ちゅ、と吸い付いたら恢の喉が鳴る。
頬を撫でて、目尻を滑る恢の指の感触が気持ち良い。
「…ふ……ン、ん」
尖らせた舌が粘膜を押し上げるようにして抉る。
上顎とか頬の内側とか、自分で触っても何の変化もないのに。
恢が触れたらそこからじわじわと広がる熱と心地好い痺れ。
それが澱のように体の奥底に溜まるんだ。
「ぁ…ん、ン…かい…かい…」
濡れた唇はぽってりと腫れてしまったみたいに熱い。
「なぁに」
艶のある瞳が僕を見てる。
蕩けてしまいそう…
「すき」
溢れ出るように零れた本音は小さくて掠れていたけど、恢は笑ってくれる。
「知ってるよ」
そう言って僕の体を抱き締め直すと耳朶を軽く噛まれた。
「俺もそーたが好き」
囁くように流し込まれた言葉にひくりと体が震える。
「敏感なそーたの体も好きだよ」
「ひゃ…っ」
噛んでいた耳朶を強く吸って舐めた舌は、濡れた音をさせながら耳の中へ侵入してくる。
「ねぇ、そーた」
ぴちゃぴちゃと音をさせるのはわざとなんだと思う。
そうやってして僕の羞恥心を煽る。
「ここでシてもいい?」
熱い吐息と一緒に流し込まれた言葉に反応したのは体が先。
じゅわり、と濡れたような気がした。
「だめ、だよ…っ」
そう。
でも、だめ。
だって今は体育祭で、ここは階段の踊り場。
こんなとこでキスしてるのだって、だめなんだから。
「…んー」
緩んだ腕の中で恢を見上げるとなんというか…楽しそうに笑っている。
長い指が鼻の頭を撫でると眼鏡を奪った。
「恢?」
その眼鏡は恢の体操服の襟元に引っ掛けられる。
体を抱き締める腕が解かれて包まれていた温かさが散っていく。
いつまでも抱き締めていてもらうことなんて、できないのはわかっているのに。
それでもやっぱり寂しいと思う。
「そーた」
「…うん?」
「そんなかわいー顔しないでよ」
「え?」
恢の掌が僕の両頬を覆う。
包まれた温かさにほっとした。
掌は頬を包んだまま長い指が耳朶を撫でる。
擽ったい感触に肩を竦めた。
「そんなにかわいーと、我慢できなくなっちゃう」
え、と声を発する間も無く塞がれた唇。
「…っ……んぅ…ン…っ」
さっきのキスは穏やかだったんだ、なんて思うくらい激しいもので。
あっという間に酸素も意識も持っていかれてしまう。
「ん、ゃ…ァん…っ…んー…」
掻き混ぜられて泡立ってしまうんじゃないかと錯覚しそう。
ぞくぞくとしたものが背中を駆け降りていく。
一瞬だけ離れた唇は息を吸い込むとまた塞がれる。
吐き出す息も唾液も全部、混ぜて混ぜてぐちゃぐちゃにして。
「ぁ、んっ」
いつの間に壁際に押さえ付けられていた。
逃げ場がない状態に気が付いたのは恢の指が僕のモノに直接絡み付いた時。
制服だったらこんなに簡単に触れないのに。
「ふ…ゃあっ、やっ、ぁ…だめだ…てっ」
恢の背中に回した指に力が入って体操服を握り締める。
「すげ…」
呟いた恢の声は掠れていた。
何に対して呟いたか、なんて…
「そーたのここ…ぐしょぐしょ」
「ひ…ぁあっ」
ぎゅっと掴まれて先端を抉るように揉まれたら、イったみたいに先走りが溢れた。
「こんなガチガチなのに、止める?」
囁いた声は甘くて優しい。
それなのに手の動きはいやらしくて容赦無い。
「や、ぁあ…っ!もぉ…ああぁ…」
出ちゃうから、と恢の背中を叩いた。
くすり、と小さく笑うと目の前の恢が消える。
それと同時に擦り下げられたジャージと下着。
「……っ」
上がりかけた声は飲み込んだ。
膝を着いて僕のモノを咥えた形の良い唇。
恢の咥内で根本から先端へ舌が絡む。
「んー…っ、はぁ…あ…」
喉奥に吸い込まれて引き絞られて…
「ゃ、やぁ…っ!」
はしたなく揺れてしまう腰は止まらなくて目をきつく閉じた。
恢の舌が先端を捏ね回す。
熱くて柔らかい舌の動きは的確で、焦らすつもりは全くないらしい。
括れているところと先端を何度も往復して煽られる。
「んっ、んん…ぁ…ひぁ…あああっ」
理性なんて少しの役にも立たないと頭の片隅で思いながら、恢の咥内へ白濁を吐き出してしまった。
「ふ、ゃ…っ」
搾る取るように吸い上げる動きに腰が揺れる。
ちゅ、と軽いリップ音がするとヒヤリとした空気を感じる。
恢の口が離れたんだ。
ずるずると下がる体を支えながら整えられた体操服。
「ば、か…」
「ごちそうさま」
「も…信じらんない」
「なにが?」
「こんなとこで、する…とか」
戻ってきた眼鏡に視界がクリアになる。
その中で恢の唇を滑る赤い舌はいやらしくって、目が奪われた。
「だってそーたがかわいーから」
「……ばか」
肩を叩いた手を掴まれる。
「恢?」
「だけどね」
引き寄せられて恢の唇が耳朶に触れる。
「ホントはそーたの中に入りたいよ」
熱い吐息と一緒に流し込まれた言葉。
それから捕まれた手を置いた場所。
熱くて、硬くて…
「あっ」
僕の中をぐちゃぐちゃに掻き回して僕を乱してしまうモノ。
あまりの熱さに喉を鳴らすと恢は笑う。
「また、夜…ね」
熱塊から離された手を握り直すと、その指先にキスをした。



クールダウンとか言って顔を洗った恢。
それで治まるものなの?
まあ…治まってくれなきゃ困るんだけどさ。
「日焼け止め、塗ってたんだ」
「んー、まぁね」
そーたにも塗ってあげる、とか言って僕の顔に日焼け止めを塗る恢を見つめる。
「一応、商売道具だからね」
「…そっか」
あっさりとした言葉。
でもね…
すごく、重たい言葉。
僕の恢。
だけど現実には全ての恢を僕のものに出来るわけはなくて。
わかっているのに、突き付けられたものに動揺をする。
いつ、この黒くて重たい感情を消化できるようになるんだろう。

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