カイとソウ《2》
*


──焼きおにぎりは時間がかかるよね

コンロの前に立ってそんな風に話していたのはとーさん。
ゆっくりゆっくり焼いて、そしたらカリカリに焼けた美味しい焼おにぎりができるよ。
小学生の僕にそんな話をしながら、笑う。
とーさんの隣でぱちぱちと火の弾ける音を聞いていた。



そんな夢を見たからか、無性に焼おにぎりが食べたくなった。
だから今日の弁当は焼おにぎり。
「珍しいね」
弁当箱を開けた恢は目を細めて笑う。
「うん、たまにはね」
給水塔の影はまだ涼しく感じるけど、日向はかなり暑くなってきたと思う。
「……詠くんと話した?」
「んー…メールはしたけどね」
返事ない、と苦笑い。
「そっか」
僕から恢に説明はなんだか上手く出来ないような気がして、悩みがあるみたいとしか伝えてない。
「でもさ、そーた」
「ん?」
「そーたがそんなに詠を気にするの、ヤだなぁ」
覗き込むように下から僕を見つめる切れ長な瞳。
「ぇ…と」
「そーたには俺のことだけ考えていて欲しいな」
「恢…」
おねだりするような、甘えた声に顔が熱くなってくる。
「俺以外のこと、考えないで」
潜めた声は少し掠れていて、この昼休みの長閑かな感じとそぐわない。
ちゅ、と小さな音をさせて離れた唇。
綺麗な弧を描く唇を滑る舌。
いやらしいと思う。
「……ばか」
でも、その唇が魅力的なんだよ。
目を逸らしたら恢が小さく笑う。
ふわりふわりと髪の毛を撫でる指は優しくて…
「詠はさ、あんまりメールとか電話だと話さないんだよね」
「え?」
「なんだろーね……直接だったらけっこう話すけど」
離れて暮らす今はあまりそういう機会がないということ?
「そうなんだ」
「うん」
「…やっぱり、そういうのって兄弟ならではなのかな」
「そーなのかなぁ?」
恢は首を傾げる。
ピックに刺さった唐揚げを口に入れて。
今日の弁当は箸とかフォークを使わないで食べられるようにしてある。
なんかこう…
ピクニックみたいで楽しいかなぁ、とか思って。
「あ、カレー味だ」
「二種類作ってみたんだけど」
「おいしーね」
にこりと笑う恢がかわいくて思わず頭を撫でた。
「そーた?」
「恢がかわいーから」
「……それ、そーたしか言わないからね」
「不思議だなぁ」
こんなにかわいーのにね。


そうやって恢とのんびり弁当を食べていたら詠くんがやってきた。
恢にポツポツと話す姿はやっぱり弟で、詠くんに優しく接する恢はお兄ちゃんだった。
詠くんの話す内容に驚く恢はレアなものじゃないかな。

「そういうの、ドキドキするよね」
隣のヤスに尋ねたらなんとも微妙な表情。
「俺も潤也も一人っ子だからね、よくわかんないや」
「僕も兄弟のそういうのは良く分かんないけど」
「ギャップ萌え?」
かくんと首を傾げたヤスに覗き込まれる。
「んんー…そうなのかなぁ」
「まぁ、恢を見てギャップ萌えとか言っちゃうのは箏くんくらいだと思うけどね」
「そーかなぁ」
「そーです」
きっぱりと言い切られて前を歩く長身二人組を見つめる。
「でも石崎がけっこう甘党とかはギャップじゃないの?」
「世間的にはそうなのかもしれないけどさ、俺としては当たり前だから」
「…そっか」
生まれた時からの幼馴染みだもんね。
言われてみれば、僕もミカがお嬢様然とした見た目に反してチャキチャキしてるのは当たり前かもしれない。
「まぁ、恢に関しては箏くんにしか見せてない部分も多いだろうからね」
「そ、かな」
頷いて僕を見るヤスはもう一度、頷く。
僕だけにしか見せない恢なんて、そんなの嬉しい。
「箏くん…顔真っ赤」
ヤスに頬を突っつかれて俯いた。
「もうさ、こう…箏くんは反応がいちいちかわいーと思うんだよね」
「……意味わかんないよ」
「恢が構いたくなる気持ち、よーぉぉおくわかるよ」
力説してくれたけどさ、ニヤニヤしてたらからかってるの丸分かりだからね。


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あきゅろす。
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