カイとソウ《2》
*

「混んでるね〜」

到着した電車はちょうどラッシュに当たる時間のせいか、かなりの混雑具合。
このまま僕の家に向かおうと思ったけど…
1本遅らせた方がいいかな?
恢を見ると少しだけ笑うと電車へ乗るように背中を押した。
先頭車両の一番端のドアなのは偶々。
そのまま後ろの乗客に押されるように車両の奥へ入っていき、反対側のドアがある辺りで落ち着いた。
「そーた、苦しくない?」
「うん」
恢の肩に額をくっつける。
そこからじわりと感じる恢の体温。
それから微かな柑橘系の匂い。
ドアが閉まって電車が動き始める。
その拍子に恢の体がもっと密着して抱き締められたみたいになった。
「潰れてない?」
壁と恢の間に挟まれて顔も上げられないけど、なんとなく可笑しくて笑ってしまう。
「そーた?」
「ん…平気だよ」
やっぱり周りに人がいると恢にくっつくことは出来ないから…
恢の制服が指に当たる。
脇腹辺り、かな。
そーっと握った。
頭の上で恢が笑ったみたい。
「……っ、ぁ」
壁と背中にある僅かな隙間から恢の手が滑り込んで抱き締められた。
「そーた」
「な、に…」
「大丈夫?」
耳元での声に体が小さく跳ねる。
「…だぃ、じょ…ぶ…っ」
ひゅ、と喉が鳴る。
だって…
恢の膝が僕の足の間に押し込まれたから。
ゆっくりと上下に動く膝に、内腿が小さく震える。
恢の首元に潜り込むようにしたけど、唇を滑る息はいやに濡れている気がした。
周りには密着するくらい人がたくさんいるのに。
電車の中なのに。
それなのに、いやらしく恢を求めようとする僕の体は本当に浅ましい。
唇を噛んで潜めるように深呼吸を繰り返す。
その間も恢の膝は僕の足の間を上下に動く
たったそれだけのことなのに。
体の奥に灯るような熱。
「……っ…ふ」
噛み締めた唇から漏れてしまう息は熱くて、纏わりついてくる。
背中に回った手もゆっくりと滑って尻ポケットに滑り込んだ。
きゅう、と掴まれて息を止める。
だめだと頭を振ったのに恢の手は止まらない。
尻の間をゆっくり撫でる動きに腰が跳ねた。
「ン…っ」
周りに聞こえちゃう。
恢の肩越しに見えるのは車内の中吊り。
そっちへ意識を持っていこうとするのに、恢の指が絶妙なタイミングで動いて上手くいかない。
電車の動きに合わせて揺れる中吊りは…雑誌の表紙。
「か、ぃ…っ」
背中合わせで座る恢と男性モデル。
「そーた、気分良くない?大丈夫?」
あっさりとそう言って僕を見る。
ばか、と口を動かすととっても楽しそうに笑う。
その間も恢の指は僕を追い詰める。
「もう少しで着くから、ね」
優しい声。
錯覚しちゃうじゃないか。
熱い息を飲み込んで、額を恢の肩に埋めた。


電車が止まる。
人が降りる。
また走り出す。
それを数回繰り返す。
少しずつ減っていく乗客。
それに合わせて密着していた体は離れた。
その代わり、僕は恢の腕にしがみついている。
顔を上げられなくて、触れられた場所から恢が浸透してしまったみたいに熱くて。
「そーた、次だよ」
「ん…」
周りから見たらどう見えるんだろう。
体調が悪くなった友達に手を貸す姿…かな。
一度、僕の手を離させると深く肩を組む。
減速していく電車。
よろけそうな体を抱えるように支えてくれるしっかりとした腕。
「足元、気を付けてね」
柑橘系の香りと一緒にふわりと僕を包む声に頷いた。

ホームは電車が走り去った風が吹き抜けて、湿度の高い空気が一掃された。
「……ばか」
「なぁに〜?」
覗き込む恢はとっても楽しそうに笑う。
そういう表情はいつもより幼くて…というより年相応なのかな。
格好良くてかわいいその表情は僕のお気に入りではあるんだけど、今はじっくりと見る余裕は無い。
「こんなに感じやすくてさ、一人で電車なんて平気なの?」
「平気」
「そーかなぁ…ちょっと触られたらエロい声出ちゃうし」
耳元での声にここが駅のホームだということが吹っ飛んでしまいそう。
「だって…!」
「んー?」
「恢が」
切れ長の目が少し細められる。
「俺が?」
じわじわと顔が熱くなっていく。
ホント、ずるいと思う。
僕ばっかりドキドキしているみたいで。
「恢が、触る…から」
目を逸らして零した言葉に余計、恥ずかしくなる。

「わっ」
ぐいっ、と肩を抱き寄せるとそのまま早足で歩き始めた。
慌ててそれについて行くけど、恢の長い足についていくのはかなり大変。
「恢…!?」
チラリと僕を見るとすぐに前を向いてしまう。
「そーたが」
「僕?」
「そーたがかわいすぎるから、いろいろ無理」
「へ…ぇ、え?」
なんだかわからない理由を言われて、家までの道を急いで進んだ。



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