カイとソウ《2》
*


大きな掌が項を覆う。
何度か首を揉んでから離れた。
人の項なんて、そんなに注目したことはないけど…
うっすらと筋肉を纏うその首筋はどうしても惹かれてしまう。
僕のものだと、印を付けてしまいたい。

そんなこと、できないけど。

「そーた?」
振り向いた恢には首を振る。
恢の項を見ていたなんて、そんなこと言えないし。
首を傾げて、また石崎と話始める。
「箏くん」
「ん」
隣を歩くヤスにはバレたみたい。
目を逸らして遠くに浮かぶ雲を見た。
「箏くん…あのさ」
「…言わなくていいよ」
思考の恥ずかしさは僕が一番自覚しているから。
赤いだろう顔を見せたくなくて不自然に背けたのに、ヤスの指が頬を突っつく。
「そーいうの、恢は喜ぶでしょ?」
「…………まぁ」
そうかもしれないけど。
「でも恥ずかしいか」
「うん」
そりゃそうだぁ!、なんて明るいヤスの声に石崎が振り返る。
それには手を振って前を向かせてしまう。
「ところで箏くん」
「ん?」
ちらり、と前方に視線を遣ってから潜められる声。
「あの一年は?」
あの一年…
「小野…?」
「そう」
屋上で会ってからは…
首を振る。
「どうして箏くんなんだろーね?」
「…わかんない」
小野は僕が中学3年の時の体育祭の係が一緒になってからの付き合い。
係を始めた頃の小野の記憶は無いから、たぶん途中から懐かれたんだと思う。
「気が付いたら教室まで来るようになってて…」
肩を組んだり手を握ったりするようになって、あっという間に抱きつくようになっていた。
「クラスの友達とか、まあ…いろいろな人が小野に捕まらないようにしてくれてた」
「箏くんは興味持たなかったの?」
「うん…小野だけじゃなかったけど」
とーさんが事故に合って居なくなってしまって、全部のことに興味が薄かった時期だから。
そうじゃなくても、男である小野に惹かれることはあったかと言えば…疑問。
「後輩としては、嫌いじゃないし…悪いやつだとは思ってないよ」
「うん」
「でも…小野を特別に思うのは難しい」
「そっか」
「ん…」
頷いたヤスに僕も頷く。





──────

風呂に入って髪を乾かしてベッドに転がる。
「そーた」
机の椅子に座っていた恢がベッドな端に座り直す。
体の向きを変えるとそのまま抱き締められた。
「恢?」
上半身を覆うように抱き締められて恢のしっかりとした背中に手を回した。
「どしたの?」
「んー…甘えてんの」
体は大きいのに、こういうトコがかわいいんだよね…
首に感じるのはほわほわした恢の吐息。
「そーた」
「ん?」
「どこかに行っちゃわないでね」
「…恢?」
「俺がいない間に」
その、不安を滲ませる声に心臓が跳ねた。
「行かないよ」
「うん」
「だって、僕は恢が好きなんだよ」
「…うん」
僕の心の奥深くまで根付いた恢への思いは、きっと恢が思うより濃くて重たい。
「恢が、いい」
頬に感じるさらさらとした髪の毛。
それに擦り寄って呟いた声は情けなく掠れていた。

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