カイとソウ《2》
*
恢の首筋に目が行く。
そーっと手を伸ばすと恢が笑った。
「なぁに?」
「髪の毛…いつ切ったの?」
いつもは隠れている首。
動画が送られてきた時にはまだ髪は切られていなかったのに。
「撮影に入る前だから…初日の夜だね」
そっか、と呟いて晒されている首をそっと撫でた。
首に触って髪の毛に触れないのは不思議な感じ。
あの動画はメールの前日に撮ったものだったんだ。
「明日、大騒ぎになりそう…」
「ん〜…そうかなぁ」
興味がないのかな。
薄い反応にそんな風に思う。
「じゃ、行くよ」
僕の頭にヘルメットを被せてポンと叩く。
自分はハーフメットとサングラスをかけてバイクに跨がる。
こういう時に思うんだ。
「足なが…っ」
「そーた?」
「なんでもない」
恢の後ろに座って腹に手を回す。
ポンポン…
僕の手を包むように叩くとバイクが発進した。





エレベーターに乗ると壁に寄り掛かった恢は欠伸をする。
「疲れてるよね」
「そーたが居るからヘーキ」
「……なに、言ってんの」
へらり、と力の抜け切った笑みを浮かべると僕の肩を抱く。
「あー…」
屈むと顔が髪の毛に埋まる。
「恢、どうしたの?」
「そーたの匂い堪能中」
「な…っ」
今日は体育があったんだってば!
汗かいたから止めて欲しい。
体育がなくたって、夕方に差し掛かるこの時間は汚れてるし。
じたばた暴れてもがっちり拘束されてしまう。
「汗くさいからっ」
「ないないないからダイジョーブだよ」
軽く流されてしまった…
そんな、ちょっとしたじゃれ合いをしながら部屋へ入った。
「香澄さんは?」
「ぇーと、帰って…えー?どうだっけ…」
首を傾げる姿に笑いが漏れる。
なんか、かわいい。
「帰ってくるにしても遅くなるよ」
指を絡めて手を繋いでリビングへ行く。
僕の手からバッグを奪うと恢の部屋へ持っていってしまう。
リビングへ戻ってくると、立ったままの僕の肩を抱いてソファーに座った。
「そーた」
こめかみにキスをすると覗き込まれた。
「眼鏡、取って」
お願いするように言うけど、長い指はあっという間に眼鏡を奪ってしまう。
「そーた」
「ん?」
眼鏡は畳んでテーブルに置かれた。
両頬を包まれて恢の方へ向かされる。
近くにある恢の瞳。
「ん…ぁ…ゥん」
唇がぱくりと噛まれた。
固い歯の感触とぷにっとした唇、ぬるりと入り込んだ舌。
待ち望んでいた恢の唇。
目を閉じて恢の感触をじっくり確かめる。
「ふ…ぅ……ぁふ…ん、んん…ぁむ…ン」
ゆっくり優しく歯列を撫でてそのまま舌を絡め取られた。
強く吸い上げたり中で暴れまわるようなことはなくてつるつると宥めるように舐められる。
その、甘やかすみたいな動きに恢の胸元に縋りついた。
ふ、と笑ったのか空気が動く。
頬を包む手が離れて抱き締められた。
あぁ、僕の恢だ…
「かわいーなぁ、もー…」
力の抜けた僕の体をゆらゆら揺らす。
「ンぁ……ば、かっ」
目の前にある瞳は逸らされることなく僕を見る。
「そーたに触りたかったよ」
「ぁ…」
撫でるように這う唇。
かかる吐息の熱さに胸がドキドキと走り始める。
項を撫でて後頭部を包む大きな掌。
「恢」
「はぁい」
「恢、恢…っ」
「なぁに?」
優しく笑む瞳に映る自分は情けなく歪んでいるのに、恢の空気は変わらず甘い。
「ぎゅって、して」
恢の首に鼻を擦り付けてねだった。
直接触れた恢の肌は温かくてさらりとしていた。
「……も、かわいすぎるからっ」
「わっ…ぅわあ!」
もともとくっついていた体をもっと強く抱き締められて、バランスを崩すとソファーから転がり落ちてしまった。
「いてー…」
恢と向き合って、僕の背中はソファーの側面にくっついている。
恢はテーブルにぶつかったのか眉間にシワを寄せた。
テーブルは恢の体の分だけずれている。
「あっ!」
恢が怪我したら…
体そのものが商品の恢。
その体に傷なんて付いたら大変。
慌てて起き上がろうとしたら恢に止められてしまった。
「恢!背中っ」
「大丈夫だから、ね?」
「でもっ」
「いーから」
恢を見上げると腕に包み込まれるように抱き締められた。
「心配いらないよ」
額同士を擦り合わせる。
僕の目には恢の切れ長の目だけしか見えなくなる。
「俺は痣とか出来難いから」
「そ、う?」
「そーたと違ってね」
シュ…
ネクタイを引き抜く音。
「え?」
恢の指は器用なのか、右利きにも関わらず左手も割合と細かな動きが出来る。
シャツのボタンを素早く外す、とか。
「ちょ…っ、ちょっと」
感心してる場合じゃないってば。
転がり落ちたこんな場所でそんな雰囲気にならなくてもいいのに。
そう、思うのに。
「ゃ…あっ」
喉仏から熱い舌が滑り降りて鎖骨を吸い上げられた。
「ン……ほら、ね」
恢が楽しそうに、嬉しそうに言うから…
「もぅ…」
笑ってしまった。
「そーた」
「ん?」
ふにふに頬を摘ままれて、恢に視線を合わせる。
「やっと笑ったね」
蕩けてしまいそうな甘い甘い瞳が細められる。
それが、あまりにも…
「そーた…どうしたの?」
「好き…っ」
「そーた?」
「恢が好きっ」
あまりにも、愛おしものを見るようで…
胸が締め付けられた。

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あきゅろす。
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