カイとソウ《2》
*
朝はやっぱり起きられなくて、かーさんに起こされた。
回らない頭のまま学校へ向かった。


教室へ向かう前に生活指導室へ寄った。
「ご迷惑おかけしました」
いつもと変わらず笑う柊先生に頭を下げる。
「箏太は真面目だなぁ」
「そんなこと…」
「あるある。ま、俺らは仕事だし気にしなくていいさ」
軽く言われてしまった。
「詠には声かけてやってくれ」
「はい」
「あいつはかなり心配性だからな」
「そ…です、か」
詠くんが心配性なのかどうかはわからないけど…
会って話さないと、とは思っている。
「恢は今日戻って、明日から復帰だろ?」
「はい」
「じゃあ、大丈夫だな」
柊先生にはお見通しみたいだ。


紺野先生には軽く小突かれ、石崎とヤスに叱られた。
飯島先生と詠くんへは休み時間を使って会いに行った。
飯島先生には軽く流された。
詠くんはまだ心配そうだった。
小野とのことは何か感じているのか、僕を見つけるとすぐに教室から離れてくれた。
小野は僕を見ると目を逸らした。

授業はぼんやりしつつもいつも通り受けた。
弁当は今日も作れなかったからコンビニのおにぎり。
教室でのんびり石崎とヤスと食べた。
でもどこか上の空で過ごす。
今日は、まだ恢からメールが来ない。
「あ、箏くん」
おにぎりを一つ食べて二つ目をどうしようか転がしていると、石崎に声をかけられる。
「今日は、一緒に帰ろうな」
「え…ぁ、うん?」
突然どうしたんだろ。
「ぼんやりしてて危ねーって」
「そんなこと」
「あるから!これ決定だから」
きっぱり言い切られて思わずヤスを見る。
「潤也の言う通りだから諦めなよ」
「ヤス…」
なんだか情けなくて肩が下がった。
「ま、諦めろ」






昇降口で靴を履き替える。
下を向くとどうしても零れる溜め息。
恢からメールが来ない。
まだ、打ち合わせしてるのかもしれない。
疲れて寝てるのかもしれない。
そう思うのに。
「落ち込んでないで行くぞ」
パチン、と肩を叩かれて顔を上げると石崎が隣に居た。
「…ん」
とにかく帰って、連絡を待つしかないか。

ヤスを間に挟んで三人並びで歩く。
校門を出るまでひっきりなしにかかる声に軽く返す石崎。
「やっぱりスゴイね」
ヤスは不思議そうに僕を見る。
「石崎」
ぱちり、と瞬きをして石崎を見て首を傾げる。
「恢の方がスゴイでしょ、ね?」
「アイツは化け物」
「だね」
「その化け物をコントロール出来る箏くんはもっとスゴイ」
「そうそう」
なんだろうね、この幼馴染みカップルは…
「恢のコントロールなんて出来ないよ」
「アイツは箏くんの言うことしか聞かないだろ」
そんなことないよ、と完全に否定できなくて黙る。
黙っていたら石崎に笑われた。
そうやってのんびり歩いた。
昨日寄り道した喫茶店のある横道に差し掛かる。
「箏くん」
ヤスに手を掴まれて足を止める。
「また明日ね!」
「え?」
にっこりと笑う顔は邪気がなく、ここで別れるのが当然というような流れ。
「僕も駅に…」
「箏くんはここでいいんだって」
意味が分からなくてヤスを見つめたのにヒラヒラと手を振って行ってしまった。
「ここでいい?…なんで?」
わけがわからない。
数歩、足を進めた。
足が止まる。
駅に向かう道の先に寄り添うように並んで歩く石崎とヤスの姿がある。
喫茶店へ続く横道に停まるバイク。
それに軽く腰かけている…

「ただいま、そーた」

ヒュ…ッ
喉が鳴って、呼吸が止まった。
視線の先。
黒いジャケットを着た恢がバイクから立ち上がる。
少しだけ日に焼けた顔。
肩にかかる長さだった髪の毛はさっぱりと切られていた。
「そーた」
「……打ち合わせ、は」
「終わったよ」
「どうして、ここ…」
「そーたを迎えに来た」
目の前に立つ恢が笑う。
長い指が髪の毛を掻き混ぜる。
ほわりと伝わる恢の体温と柑橘系の匂い。
僕を見つめる、甘くて蕩けてしまいそうな瞳。
「恢…かい」
「ん、なぁに?」
手を伸ばしたら恢の指が絡んで引き寄せられた。
「おかえり」
「ん、ただいま」
直接感じる体温。
耳に流れ込む声。
ああ、恢だ…


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