カイとソウ《2》
*
恢に動けなくなるまで抱かれて3日間学校を休んだ。
ヤスに怒られた。
石崎に心配された。
でも僕は、恢が本気で閉じ込めようとしてくれたことが嬉しかった。




──────

ゆっくり荷物をバッグに片付ける。
「箏くん」
石崎の声に顔を上げた。
「大丈夫か?」
「…ぁ……うん」
恢が学校を休んで2日目。
病欠ではなくて…
「明後日には、来るし」
試験期間が終わり土日を挟んで週明けの月曜日から恢は休んでいる。
予定通り、化粧品のポスターを撮影するため。
メールでのやり取りはいつもより少ない。
仕方ない。
恢は仕事してるわけだし。
試験前は一応えっちなことを控える恢は試験が終わるとけっこう凄い。
いつもより僕を欲しがる姿に安堵して歓喜していた。
だけど今回は撮影があるからか、試験が終わってもキスをして抱き締めるだけ。
自分でどう処理したらいいのかわからない熱が渦巻いている。
「なんかさぁ…」
バッグを持った僕の肩に手を置くと顔が近付く。
あまり至近距離で見ることはないけど、石崎はやっぱり整った顔してるなぁ。
恢を近くで見慣れた僕でさえ、格好良いと素直に思う。
「箏くんの空気がエロいけど…ホントに大丈夫か?」
耳元での声。
言われた内容がじわじわと広がる。
「そ…んな、ことっ」
エロいってなに!?
「あるから、気を付けろよ」
何に、どう気を付けろと言うんだ。
眉間に力が入ると石崎の指が触れて、シワと言われる。
「今日は委員会だろ?」
「うん」
「小野…だっけ?アイツの近くに行くなよ」
「行くつもりはないけど」
「今日の箏くんはマジでヤバイからな」
「……」
なんて答えればいいんだ?
わからないけど、石崎が本当に心配してくれているようなので素直に頷いた。
それから教室へ来たヤスに青リンゴの飴を貰った。
二人に見送られて教室を出る。
飴の袋を開けて口に入れると甘い香りに少しだけ力が抜けた。



半ばぼんやりと委員会の時間を過ごす。
窓の外を見るとまだ明るい。
ずいぶん日が延びたなぁ…
そんなことを思っていたら委員長が委員会の終了を告げた。
さて、帰るか。
プリント類を纏めてバッグに片付ける。
「箏太センパイ!」
元気な声に顔を上げた。
「一緒に帰りましょーよ」
「小野…」
何かを考える前に首を振った。
「や…一緒には帰らない」
「そんなこと言わずに〜!ね!?」
それにも首を振って立ち上がった。
肩を掴まれて小野を見る。
え?
目が合った小野が驚いたような表情になった。
大きく開かれた目と、じわじわと赤くなる顔色。
「小野?」
なんだかわからないけど、肩にある手を退かして背を向けた。
家に帰って…恢にメールして。
それから…
「なにしよう」
昨日はなにしたっけ。
「…………あれ?」
恢がいない日はどうやって過ごしていたんだっけ。
去年の学祭以降、完全に恢の気配が無い日はなかったのかな。
傍に居るのが当たり前になっている。
……僕はどれだけ恢に甘えているんだろう。
大きな大きな溜め息が零れた。




「箏太センパイっ」
改札口を出て定期を仕舞っていると肩を叩かれた。
「………しつこい」
「ひっでーなぁ」
思わず出た言葉に小野の顔が歪む。
それでもどこかぼんやりと膜を張ったような頭ではうまく考えることができない。
「ねぇ…箏太センパイ。ホントに顔色悪いよ…」
「いいから…っ」
だからこそ、放っておいてほしいんだ。
「こんな顔色悪い箏太センパイを放っておけるわけ無いじゃん」
腕を掴まれて全身に震えが走った。
恢とは違う力加減。
恢とは違う手の大きさ。
恢とは違う体温。
受け付けられなくて小野の手を振り払った。
「箏太センパイ?」
「僕に触るな」
小野を睨む。
僕が誰かを睨むことは殆んど無いから。
今の小野の驚いた顔は当然なのかもしれない。
でもさ。
今は恢がいないんだ。
僕を抱き締めてくれる恢が傍にいない。
固まっている小野には構わず足早にその場から離れた。

途中から走りだし、家に勢いのまま飛び込んだ。
「はっ…は、はぁ…」
息を整えながら部屋に入りバッグを床に落とす。
ブレザーを脱いでネクタイを弛めて抜き取った。
手早く制服をハンガーにかけてシャツはそのままにケータイを手にする。
ベッドに座ってケータイに目を落とすと着信のマーク。
急いでメールをチェックすると恢からだった。
少し時間があったのか、日中のメールのわりに長いもの。
いつもと変わらない、食事のこと撮影でのハプニング、そんなことが書かれている。
「…ばか」
──そーたのごはんが食べたいよ。
ホテルで美味しいごはんを食べているくせに。
そんな喜ばすような一文。
ホテルの部屋はマネージャーと一緒らしくて、僕に電話をすることができないそうで。
撮影以外の時間もだいたいマネージャーが付いているとか。
電話できなくてごめん、というのが一番最初のメールに書いてあった。
「ムービー…」
添付されているデータは写真ではなくてムービー。
珍しいな。
「あ」
ざわざわと人が動き回る中心にいるのは真剣に打ち合わせをする恢の姿。
『箏太くーん!メイクの相馬です!!覚えてますか〜?』
相馬さん…
うん、覚えてる。
初めて恢の撮影に付いていった時、恢のメイクをしていたのが相馬さん。
そっか、今回の撮影も相馬さんがメイクなんだ。
『ちょこっとだけど恢くん撮るね』
明るい相馬さんの声。
あまり近くには寄れないのか少し引いた位置からの姿。
スタッフと細かな打ち合わせなのか、時々恢の唇が動く。
声は聞こえないけど…
「恢…」
いつも傍にある横顔。
隣に居れば触れることが出来るのに。
画面の恢を指で撫でる。
そこからは馴染んだ温かさは伝わらない。
ああ、そうか。
つい忘れてしまう距離。
この距離が僕と恢の距離。
モデルをしている恢と、ただの高校生の僕の。
人の輪の中から恢が抜け出てくる。
『恢くん!』
相馬さんの声に気が付いた恢が微かに笑う。
ホンの少しだけ口角を上げて。
『相馬さん、何やってんの』
恢の声。
『恢くん撮ってんのよ。箏太くんに送れるように』
一瞬だけ恢の目が大きく開かれた。
『そーた』
甘い、甘い蕩けるような声が僕を呼ぶ。
『そーた』
近付いてくる恢の顔。
『ちょ…!恢くんっ、私のケータイ〜』
相馬さんの慌てる声と揺れる画面で恢が相馬さんのケータイを奪ったのがわかった。
完璧な笑顔で画面が恢だけになって…
『そーた』
囁くような声が僕を呼ぶ。
恢の唇がアップになったと思ったら、画面が真っ暗になって。
『ちゅっ』
すぐに恢の笑顔が画面に映る。
『待っててね』
「…ば、かっ」
相馬さんの手に戻ったらしいケータイに恢は手を振って離れていく。
『以上、恢くんでした〜』
相馬さんの声が続く。
でもそれが何て言っているのかわからなくて、顔が熱くて、間もなく真っ暗になった画面から目が離せなかった。
恢のばか。
僕の名前をあんな声で呼んで。
あんな笑顔で。
余計、恢に会いたくなっちゃうじゃないか。
「恢…恢……恢」
名前を呼ぶだけなのに。
孕む熱は誤魔化しようがなくて踞る。
恢、恢が欲しいよ。
体の奥がぐずりと崩れたような感覚。
恢が僕に触れるときに感じるもの。
「かい…っ」
そっと触れたソコは恥ずかしいほどに熱を持っていた。
モゾモゾと動いて下着をベッドから落とす。
「ふ…ぁんっ」
きゅうっと握ると跳ねる腰。
くちゅ、くちゅ…
すぐに溢れた先走りの音が部屋に響く。
「ぁ…ん、ん…はぁっ」
恢がいつもするみたいに先端を撫でた。
次から次にいやらしく先走りが零れて、でも足りなくて強く擦り上げた。
シャツのボタンを外して胸を撫でる。
指先に当たる乳首はこりこりと尖ってもっと刺激を欲しがるみたいに揺れた。
「ぁ…ぁああ…ゃ、かい…か、い」
恢の声。
恢の指。
恢の吐息。
恢の熱。
欲しい、欲しい、欲しいよ。
足りない。
「あ…ああんっ」
もう、恢に拓かれてから前だけじゃイけなくなってしまっている僕の体。
もどかしい。
「んっ…は……ぁ、ん」
胸を弄っていた指を下肢へ伸ばす。
先走りの溢れる場所を通り越して震える指を尻の間に滑らせた。
期待するように跳ねる体を浅ましいと思う。
「恢…っ」
ボロボロと零れる涙がシーツに染みを作った。
襞に触れても滑らない。
いつも…
いつも、恢が丁寧に慣らしてくれる。
痛くないように。
僕が傷つかないように。
そのままじゃ無理だから、棚からローションを取り出して指に広げる。
「…ひ、ぅ…あ、あ、ぁあ」
滑りを帯びた指がにゅるりと侵入をして生温かい内壁に包まれる。
こんな恥ずかしい姿。
恢を欲しがるいやらしい僕。
ねぇ、恢…
こんな僕でもいいの?
「いや…っ!やぁ…恢…恢っ!か、い…ああぁっ」
探し当てた前立腺を強く押し上げると溢れるように白濁を吐き出した。


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