カイとソウ《2》
*
弁当の唐揚げを摘まんだ恢は動きを止めた。
「恢?」
「ん〜、ケータイ」
唐揚げは弁当箱へ戻してジーンズの尻ポケットからケータイを引っ張り出した。
ディスプレイを見ていた恢の目が僅かに大きくなる。
お茶を飲んで眺めていると、うわぁ…なんて声を上げている。
「オーディション通ったって」
「え!?」
「化粧品とデジカメの」
この間、話していたオーディション?
「ほん、と?」
こくりと頷いた。
「すご…すごいっ!」
「ね、びっくり」
視線をディスプレイへ戻すとメールの続きを読んでいる。
「……試験の後に撮影で…ぁ…」
「恢?」
「学校、3日くらい休めだって」
「そう、なの?」
「ん…外で撮影すんのかな」
やっぱりいつもやっている雑誌の撮影とは違うんだ。
「そっちは化粧品で、デジカメはその後みたいだね」
「…忙しくなるんだ」
恢の仕事が決まるのは嬉しいこと。
なのに、なんだろう…
このチリチリとした焦り。
「そーた?」
「なんか、すごいなぁって」
うん。
本当にすごいなぁ…
そう思うのに。
なのに…
ほんの少し、素直に喜べない自分が…居て。
置いていかれそうな、引き離されそうな、そんな感覚。
「そーた」
「なに」
「おばかちゃん」
コツン…
頭のてっぺんに感じた硬い感触。
軽いゲンコツはすぐにくしゃくしゃと髪の毛を掻き混ぜる。
「恢…」
「だからね、寂しいなら寂しいって言っていいんだよ」
「……っ」
ヒュッ、と喉が鳴った。
「そーた」
丁寧に整える長い指。
その指が頬に滑り降りて、ふにふにと摘まむ。
「僕の、我が儘…」
「そーたの我が儘なんて我が儘じゃないって」
「そんなこと」
「そーたを甘やかすのは俺の楽しみなんだから、そーたでも取っちゃだめ」
「……ばか」
恢から甘やかされる気持ち良さを覚えさせられた心はぐらぐらと揺れる。
「そーぉた」
頬を摘まむ指を握るとすぐに握り返してくれる。
「応援…したい」
「うん」
「恢が、安心して仕事が出来るように支えたい」
「うん」
「でも…僕は、まだ…なにも出来なくて」
自分の力ではなにも動かせなくて。
「ひとりで歩く恢に置いていかれそうで……それが、怖くて」
「うん」
「不安、で」
見つめた先の恢は僕をじっと見ている。
恢が僕のことを飽きてしまったらどうしよう。
まだまだ一人で立てない僕に愛想をつかされたら、どうしよう。
そんな考えが、すぐに噴き出す。
大丈夫だよ、と言われて安堵する。
でもまたすぐに自信を無くして不安定になる。
その繰り返し。
まだ自分に確固たる自信を持てないから。
恢を好きになって、一緒に生きていきたいと願って…思いを伝えあったというのに。
「ごめん」
「なぁに?」
「なんか、フラフラしちゃって」
恢は確実に進んでいる。
決めたことを着実にこなしている。
「あのね、そーた」
「ん…」
「あんまりそんなこと言ってると、本当に閉じ込めちゃうよ?」
恢に閉じ込められるの…
「いいなぁ」
思わず漏れた呟きに恢が目を瞠った。





あれから引き摺られるように帰宅すると、服はあっという間に剥ぎ取られた。
ベッドの下に散乱している。
「ぅ…ふ、ぁ……んんっ」
クチュクチュと部屋に響くのは恢と僕の舌が絡む音。
目は閉じたらダメと言われた。
逸らされることがない恢の視線。
熱くて熱くて、見つめられた場所から溶けてしまいそう。
歯がぶつかるくらい深く侵入した舌は、それ自体が別の生き物のように動き回る。
歯列をゆっくり辿り、抉るように頬の内肉を擦り上げた。
そのまま上顎まで滑る。
ゴクリ…
恢の喉が鳴る。
荒い呼吸も溢れそうな唾液も全部、恢に飲み込まれた。

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