カイとソウ《2》
*


「お〜…」

新緑の桜並木を見上げた恢が感嘆の声を上げた。
かなりの距離を誇る桜並木は圧巻。
「花が咲いてる時はもちろん綺麗だけど、今の時期も好きなんだ」
薄いピンクにけぶるような淡い色調ではなくて、青空に映える濃い緑。
見ていると気持ちが前向きになるような気がする。
「…やるぞーって感じだよね」
「ぁ…」
「ん、なぁに?」
覗き込む恢を見つめた。
なんでもない、と首を振って笑った。
同じように感じたことが嬉しい。
「お花見の時期は人も多いんだよ」
「だろーね」


土の露出してない場所に座ると、隣で恢が寝転ぶ。
こんな所でぐーっと伸びをする姿はなかなか貴重かも。
「外でのんびりするの、久しぶりだなぁ」
「うん」
恢の真似して体を倒して伸びをすると恢が笑う。
力を抜いた指が絡め取られる。
その指から伝わる温かさにもっと近寄りたくなった。
「…そーた?」
仰向けの体を転がして恢の方を向く。
絡んだ指を引き寄せて頬を擦り寄せた。
「なに、かわいーことしてんの」
上半身を起こした恢が覆い被さるように顔を近付ける。
そっと瞼に唇が触れて離れた。
「僕さ…自分で思っていたより欲張りだったみたい」
「そう?」
真上にある恢の顔を見るとなんだか穏やかな瞳とぶつかる。
それがなんだか不思議だけど促すような空気に口を開く。
「恢の傍に居たくて、いつも触っていたくて…」
真上にあった恢が隣に転がった。
「離れてる時間が苦しくて」
どうやって発散したらいいのかわからない感情に振り回されてしまうんだ。
「俺も同じ」
「恢?」
「俺もそーたと同じ」
絡んだ指が強く握られる。
「そーたを好きになってからずっとだよ」
「そ…なの?」
頷いた恢の口角が上がって綺麗な弧を描く。
「俺ね、そーたを好きになるまでは何かを本気で欲しいと思うことが少なくて」
「うん」
「小さい頃は今よりはあったと思うけど、物心ついてからは人に対しても物に対してもあんまり執着することがなかった」
静かな声が淡々と紡む。
「だから自分が一番驚いた」
「恢…」
「傍に居たくて、触りたくて、声が聞きたくて、俺だけ見て欲しくて……そーたを思うと苦しくなる」
僕と同じようなことを思っているの、かな。
「でも、こうやって傍に居ると安心する」
「うん…」
「満たされるし」
「ん」
穏やかな声に、ふぅと息を吐いた。
僕のどろどろした感情を否定されることなく、まるごと包まれた。
「そーたが俺と同じように、俺のことを好きになってくれて嬉しい」
「恢…」
顔が、熱くなったよ。




「詠の好きな人?」
まさにきょとん、という表情。
「ぁー…まだそこまでではないのかなぁ」
「高校に入ってからは彼女とかいないと思うけど」
この間の詠くんを思い出す。
「詠くんは柊先生と仲良いよね」
「…え?」
あ、こういう話って兄弟同士でしないのかな?
僕をじっと見る恢は不思議そうな顔。
「放課後に手伝いしてるの、何回か見て…クラス委員じゃないのに見かけるから」
僕が用事を頼まれるのはクラス委員だから。
でも柊先生のクラスは小野がクラス委員。
もちろん小野も見かけるけど…
「まぁ…そーたもだけど、周りに居ないタイプだと思うよ」
「僕?」
「俺と詠をちゃんと区別して接する人はけっこう少ないから」
「ぇ…と、恢と詠くんは別でしょ?」
恢の言う意味がいまいち掴めない。
「うーん…そーなんだけど、ね」
なんというか、なんとも複雑そうな顔。
「俺の弟ってことで、詠自身を見ない人もいるから」
詠くん自身じゃなくて何を見るんだろう…
恢と詠くんはよく似ていると思うけど、似ているだけでやっぱり違うよ。
「俺と同じことを詠に求めたりさ、そーいうことをする人が多かったの」
恢の長い指が眉間に触れる。
うん、自分でもわかるよ。
かなり深いシワだと思う。
「そーたや柊先生とか…あとは潤也とヤスとミカちゃんはそういうのが無い」
恢の指が触れても解れないシワ。
「柊先生は詠にとって楽なんだと思う」
「……そっか」
「詠は甘えん坊だからね、もともと年上好きだし」
眉間を撫でていた指が頬を摘まむ。
「俺としては、そーたから目が逸れて良かったというか」
「は?」
さらり、と告げられた言葉にぎょっとした。
「いや、詠くんは…違う、でしょ?」
「………詠から連絡先を教えるって初めて聞いたよ」
「……」
そう言って僕を見つめる恢の瞳に心臓が跳ねた。
熱くて、眼差しだけで全部を剥ぎ取られてしまいそうで…
「見ちゃ、や…」
羞恥で全身が熱くなる。
「なんで?」
「恥ず…か、し…っ」
同じように横になっていて、目の前にある恢の顔を見れない。
「そーた、俺を見て」
「や、だ…」
囁いた声がいつもより低くて掠れていやらしい。
どきどきと心臓の音が全身に響く。
「見ないと、ここでセックスするよ」
本気を滲ませた雰囲気にそっと目を上げた。
「…エロい顔」
視線が絡むとそんなことを言う。
「恢、こそ…っ」
でもね。
そんな風に見つめられて、歓喜を感じているんだ。
僕を見て、そうなるのが嬉しくて…
どうしようもなく恢を好きなんだなぁ、と思った。

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