カイとソウ《2》
*
目が覚めたら、まだカーテンの外は真っ暗だった。
隣にいる恢の温もりに潜り込む。
「そーた…?」
ぼんやりとした、でも僕を甘やかす声に頬が緩む。
「眠れない?」
肩に回る腕。
腰に絡む腕。
「恢…」
「ん…なぁに?」
僅かな明かりに浮かぶ顔を見上げた。
恢はとろりと蕩けてしまいそうな笑顔を浮かべて僕の額にキスをする。
「好き」
呟くように告げた言葉に満足そうな笑顔。
「久しぶり…」
「え?」
もう一度額にキスをした恢と目が合う。
「そーたの好き」
「そ…かな」
「うん」
言ってないわけ無いと思うけど…
あぁ、でも…
好きと言った後に苦しくて踞りそうな痛みを感じないのは久しぶりかもしれない。
純粋に、恢が好きだと言ったのはいつだったかなぁ。
「もっと言って」
寝起きの少し掠れた声にねだられた。
「恢が好き」
「うん…俺もそーたが好き」
「好き…好き…恢が好き」
ぎゅうぎゅうと抱き締められて笑う。
笑って抱き締め返す。
なんだかこんなふうに満たされた気持ちになるのも久しぶり。
恢に話をしただけなのに…
恢が受け止めてくれていると、わかっただけなのに。
こんなにも心が軽くなる。


──────

たまには散歩でもしようか、なんて話になった。
それじゃあ、と…おにぎりと唐揚げと卵焼きという簡単な弁当を作った。
弁当とお茶を手提げの袋に詰めて外に出た。
「どこ行こっか」
「そーたに任せるよ〜」
隣の恢を見るとにこにこと笑っていて、ちょっと恥ずかしくなる。
「………川でも行く?」
家から10分ほど歩いた所に桜並木のある土手と河原がある。
時期的に花ではなくて葉っぱだろうけど、新緑はきらきらしていてけっこう好きなんだ。
「いいよ」
頷いた恢はやっぱり笑っている。
なんというか…
ここ最近ではあまり見られなかった上機嫌てやつ。
「なぁに?」
擽るように頬を滑る長い指。
「すごく機嫌が良いから」
「そう?」
「ん…」
頬から髪の毛に移動した指がくしゃくしゃと掻き混ぜる。
その感触が気持ちよくてほっと息を吐く。
「そーたがかわいーからじゃない?」
「……ばか」
また、そういう恥ずかしくなることをサラリと言う。
熱くなった頬を隠したくて俯いた。
「そーぉた」
肩に回る腕に引き寄せられて恢の体温が近くなる。
そのまま覗き込まれて思わず顎を引く。

ちゅ…

近付いた顔が頬を掠めて離れた。
「恢っ」
「あははっ!そーた真っ赤だよ〜」
「こんなとこでっ」
「大丈夫だよ〜」
離れた腕が僕に伸びる。
「はい、手」
ヒラヒラと振られる大きな手。
「え?」
「手、繋ごうよ」
当たり前のように言う恢を見つめた。
「な…なん」
「俺たち恋人同士デショ?」
恋人同士だけど…
公にできる関係じゃないよ。
なのに、手を繋いでバレたりしたら…
「だめ」
恢に迷惑をかけてしまう。
上機嫌だった表情が僅かに曇る。
「……じゃあ、5歩だけ」
ね、と笑うと僕の手を取って指を絡めた。
指先から流れ込む体温に思わず力が入る。
「いーち」
手を繋ぐのは好き。
「にーぃ」
優しい接触は優しい気持ちになるから。
「さーん」
交わる体温が心地好いから。
「しーぃ」
本当は、嬉しいんだ。
繋いだ手を引っ張ると恢が足を止める。
「そーた?」
振り向いた恢の肩に空いている手を付いて背伸びをした。
大きく見開かれた目を見つめながら、軽く唇を合わせた。
「そー…」
みるみる赤くなる恢の顔を見て、なんだか満足。
手を引いて一歩進む。
まだ固まっている恢に笑いかけた。
「五歩目……おーしまい!」
そう言ってから手を離して振り向く。
「恢?」
まだ赤い顔のままで僕を見つめている。
「もー…」
へにょりと力が抜けてその場にしゃがみこんでしまった。
「不意打ち!」
そう言うと腕の中に顔を隠してしまう。
だから僕もしゃがみこんだ。
「恢…大丈夫?」
「だめー」
「……」
「も一回そーたからちゅーしてくれたら治るかも」
「………だめ」
「けち」
腕の中から顔を上げた恢の顔はもう赤くなかった。
きゅっと上がった口角が綺麗な弧を描く。
「じゃあ、帰ったらね」
頷くと恢は立ち上がった。
僕の手を掴んで。
それからするりと絡む指。
「恢」
「うん、もう少しだけ」
「……ん」

本当はね、いつだって繋がっていたいんだ。


[next#]

1/7ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!