カイとソウ《2》
*

「箏ちゃん!」

電車を降りて改札を抜け、足元を見ながら歩いていたら手を掴まれた。
驚いて振り返るとミカの姿。
「箏ちゃん、どーしたの?何回か呼んだんだけど…」
「あ、ごめん…気が付かなくて」
覗き込まれてなんとなく目を逸らした。
「箏ちゃん」
掴んでいる手が強く引かれて足を止める。
「……ちょっと付き合って」
「ミカ」
半ば引き摺られるように方向転換した。

連れてこられたのはファミレス。
向かい側に座ったミカの顔は不機嫌丸出しでかなり怖い。
「あの…ミカ?」
ジロリと僕を睨むと無言でメニューを開く。
こんなに不機嫌なミカを見たのは初めてかも…

僕はアイスティーを、ミカはアイスコーヒーを注文した。
黙りなミカになんて声をかけたらいいのかわからなくて、視線だけがさ迷う。
「あのさぁ、箏ちゃん」
ストローをぐるぐる回しながら僕を見る。
カラカラと氷とグラスの音が響く。
かなり高速でする音にミカの苛立ちが現れているみたい。
「ちゃんと言ったの?恢くんに、僕は寂しいって」
はっきりとした言葉。
「…言ってない」
「恢くんが気が付かないわけないだろうけど、自分の言葉で告げるって大事なんだよ」
ミカの言う意味がよくわからなくて見つめた。
「だからさ、言葉にすることで『かもしれない』っていう不確定要素が認識されるわけじゃない?」
「うん」
「自分の持つ感情を認めることになるでしょ」
「…うん?」
やっぱりよくわからない。
首を傾げる。
「箏ちゃんは恢くんと居られる時間が減って寂しい?」
「……うん」
「遠くなりそうで怖い?」
「怖い、のかな」
カラリ…
高速で回していたストローを止めると苦笑を浮かべる。
「恢くんみたいな人と付き合ってたら、そう思っても不思議はないんじゃない?」
私ならそう思う、と呟いた。
ミカをじっと見ると、また不機嫌な顔に戻る。
「箏ちゃん、ケータイ」
顔の前でひらひら揺れる手。
僕のケータイで何するの?
疑問は伝わっているようだけど、ケータイとしか言わない。
「はい」
ミカの掌にケータイを乗せると躊躇いも迷いも無い手付きで操作しだした。
「ミカ…何してんの?」
僕のケータイを耳に当ててこちらへ視線を寄越す。
「……もしもーし、ミカでーす」
繋がった通話先はどこかわからないけど…
ミカの不機嫌な顔は相変わらず。
「一時間以内に来て」
場所を告げると、おそらく通話相手の確認も了承も取らずに通話を切ってしまった。
「誰にかけたの?」
自分の前に置かれたケータイを手に取る。
僕を見るミカはアイスコーヒーに口を付けるだけ。
「………」
リダイヤル画面を開いて目を疑った。
ミカが話をした相手…
「ミカ…っ」
「そんな顔でさぁ、私を見られても困るのよ」
「でも、なんで!?」
「なんで〜!?」
「だって、仕事だよ!恢は仕事で社長と会ってるのにっ」
「箏ちゃんがそんな顔してんのに!?」
ヒュッ…
喉が鳴る。
「なんの為の仕事よ?箏ちゃんをそんな顔にさせる為の仕事なの?違うでしょ!そんなの本末転倒じゃないっ」
視界が一気に歪んだ。
熱くて固い塊が喉の奥に詰まったように息苦しい。
「箏ちゃんがさ、自分の言葉で自分の気持ちを話せないなんて…ダメじゃん」
俯くとテーブルにボタボタと水滴が落ちていく。
「恢くんが気が付いていたって、わかっていたって」
ミカの指が髪の毛に絡む。
優しく撫でる感触にテーブルに額を付いた。
「ねぇ、箏ちゃん」
ミカの声はもう不機嫌でも怒っているものではない。
僕の良く知っている優しいもの。
「箏ちゃんだけが我慢したらダメだよ…ぶつかって、二人で考えないと」
「でも…っ、恢はっ、僕と…僕と居るために…って」
「うん、でも我慢はダメだよ」
情けない嗚咽が漏れる。
僕は本当に弱くてどうしようもない…



[*back][next#]

3/4ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!