ClapSS
恢と箏太のお話その2


小さな頃、寒い時期でクリスマス直前の誕生日はあまり嬉しくなかった。
どうしてそんな時期に生んだのかと思っていた。

小学生になったら休みの日にも関わらず女の子がプレゼントを持ってきてくれた。
それでも、嬉しいという気持ちにはなれなくて。
麻姉に言われたから、笑顔で受け取って…
毎年毎年、途切れないことに辟易した。
それでも俺が笑うと女の子たちは顔を真っ赤にして嬉しそうにする。
だから、笑う。
ありがとう、と言う。
誰に何を貰ったかなんて、全く覚えていなかったけど女の子たちはそれで良いと言う。
『恢くんに渡せただけで嬉しい』
そんな風に言うから、張り付いたような笑顔とお礼を繰り返した。



高校の入学式でそーたを見た。
新入生代表で壇上に上がった姿は良く見えなかった。
珍しくもない、でもあまり被ることない同じ山崎姓だったから…
代表の挨拶を読む声は緊張も見られず、落ち着いてゆったりとしていた。
とても心地好い物だった。
人の声を聞いてそんな風に感じたのは初めてだった。
きっかけは、そんなことだったのか。
今でも分からない。
思い返してみれば、人に対してそんな風に興味を持ったのは記憶に無くて。

廊下ですれ違う。
階段ですれ違う。
職員室ですれ違う。

決して交わることの無い瞳。
前を見て、優しく笑んでいて、それなのに薄く膜を張ったような飴みたいな瞳。
2位以下に大差をつけた学年首席。
それなのに目立たなくて、でも少しだけ浮いていて。
どこで見掛けても混じっているはずなのに、ふわりとした印象。
不思議な空気。

学祭を過ぎた頃から学年もクラスも男も女も関係なく声をかけられるようになったのに…
すれ違っても近くにいても飴みたいな瞳は俺を写さなかった。


潤也に言われた『一目惚れ』。
一目惚れというからには入学式なのか。
よくわからないまま、でも一度意識して傾いた心は勢いをつけてそーたに向かった。


俺を見て欲しい。
俺の傍に居て欲しい。
俺の名前を呼んで欲しい。
俺に笑って欲しい。

そーたの名前を呼びたい。
そーたの声を聞きたい。
そーたの頬に触れたい。
そーたを抱き締めたい。

頭の中がそーたで埋め尽くされた。
でも、それが幸せ。
そーたのことを思う時間が一番、幸せ。


だから。











指を伸ばした先。
触れる柔らかな髪の毛。
ふわふわとした軽い感触に頬が緩む。
指に絡めてそっと梳くとさらさら零れていく。
その髪の毛に鼻を埋めると優しいそーたの匂い。
「……ン…ん」
小さく身動ぐと、うっすら目が開いて俺を見る。
ふぅ…と綻ぶように笑んで唇が動く。
小さな、小さな、少し掠れた小さな声。

──恢

たったそれだけ。
俺の名前を呼んで、また閉じられる瞼。
無防備な甘えるような表情に心臓が跳ねる。
火照ったような顔は見られなくて安心した。
そっと肩を抱き寄せたら擦り寄る頭。
「ぁー…もぅ、かわいーよなぁ」
人差し指でそーたの頬を撫でる。
ふにふにした感触。
マシュマロみたいな感触にますます頬が緩む。





朝日が差し込む寝室。
そーたと迎える朝は数え切れないくらい。
その度に噛み締める、幸せ。
寒い、冷えきった空気のこの時期でも、そーたの隣は変わらず和かで温かい。
目が覚めたら、そーたは何て言うのかな。










──Happy Birthday Kai.


☆★☆★☆★
12月23日→恢の誕生日



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