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サマー・レイン

翌朝、稜子が突然訪問してきてあたしは驚かされた。午前中は風呂の掃除をして、洗濯をして、それから掃除機をかけて、最後にベランダでプチガーデニングを楽しむと決めている。

だから、もし家へ来るなら午後にしてもらいたい。これは親しい友人たちの中では暗黙の了解になっていたはずだった。

「突然やってきてごめんね。ほら、結希の好きなケーキ買ってきた」

何かを含んだような綾子の顔を見て、あたしは何も言うまいと思った。稜子にシナモン・ティーを準備する。我が家にシナモンを常備してあるのは稜子のためだと言っても過言ではない。彼女がいつきてもいいように。

「明日ね。同僚の結婚式に出席するのよ」

稜子は少し興奮しているようだった。後輩の結婚式なんだ。短大卒だから入社二年目の22歳だよ、22歳。仕事なんて最初っからする気なかったんだよ、あれは。営業の一番やり手の金沢さんに近づいて妊娠して結婚までもってくなんて大したもんだよね。
−−なんて言ってるけど本当はさ。同じ女としては羨ましいんだよね。結局は。


「一成さんに、挨拶してもいい?」

話が終わり、躊躇いがちに言う稜子に対してあたしは喜んで、と返事をした。それから一緒にベットルームへと向かう。

「一成さん、お久しぶり。稜子です」

稜子はそう言ったあと、一成の顔を覗き込んでから、泣いた。

−−こんなに穏やかな顔をしてるのに、なんで目を開けてくれないんだろうね。

泣いている稜子に、あたしは引き出しからタオルを出してそれを渡した。

「結希はいいの?このままで。本当に?」

出窓からベランダへ抜ける風が、一成の柔らかく真っ黒な髪の毛をゆっくりと揺らす。目にかかってしまった髪をあたしは元に戻しながら、稜子に答えた。

「このままが、いいのよ」

どうしてかあたしがそう言うと、稜子は今度は声をだして泣いた。あたしはただ黙って、稜子のそばに立ち、稜子が泣き止むのを待つより術がなかった。

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あきゅろす。
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