ひとつなぎの願い 双子岬、出航 「んん!!!よいよ!!!これがおれとお前の戦いの約束だっ!!!俺達がまたここへ帰って来る時まで頭ぶつけてそのマークを消したりすんじゃねェぞ!!」 クロッカスに手当を受けたラブーンの額に、ルフィが手ずから描いた麦わらのジョリーロジャーはお世辞にも上手いとは言い難かったがラブーンは嬉しそうに鳴く。 「よし!」 ペンキ塗れで、満足げに笑うルフィ・・・ウソップはクロッカスから木材を貰い其れを船に運ぶとある事に気が付く。 「ん?あれ、アイツらは?」 「アイツら?あぁ、あの変な二人組?逃げたんじゃない?結局あの二人っていったい何者だったのかしらね?」 『さぁ・・・だけど、あまりいい予感はしなかったな・・・』 ペンキ塗れのルフィが船の甲板に戻って来た。 『わっ、ルフィペンキだらけ』 「あー・・・ま、平気だ!」 『ペンキって落ちにくいんだよ・・・バブル!』 「うぉお!!?ぁ・・・これは・・・あぁ〜きもちぃ・・・」 血の臭いが薄れ大分元気を取り戻したティティが杖を振るとルフィの体は泡に包まれものの数秒で其れが消えると見違えるように綺麗になった。 「おぉ!すげぇ!!!」 『何でも綺麗にしてくれるんだよこの魔法』 「ん?何だこりゃぁ」 『何?』 「なんかコンパスみてぇ・・・」 甲板に転がってた見慣れない形のコンパスに二人は首を傾げる。 「おい、ルフィ!手が空いてるならテメーマスト持って来いよ!!壊した本人!!!」 「おぉ!」 「ティティ!お前も動けるようになったなら手伝ってくれ!」 『うん!』 ルフィが運んで来た折れたマストの支柱をティティが魔法で繋ぎ合わせウソップが周囲に鉄板を打ち付ける。 「くそぉ、ルフィのヤツ・・・船をバキバキにしやがって!おい、ゾロ手伝えよ!俺ァ船大工じゃねェぞ!!!」 ウソップが鉄板を打ち付けてる間にルフィとティティは岬に上がり、其れに気づいたウソップは甲板で鼾をかき眠るゾロに怒鳴る。 「あーっ!!!」 ナミの大きな声が岬に響く。 「何だ?うるせーぞっ」 『ナミ?』 「何事っすかナミさん!!お食事の用意ならできましたよ!!」 「おっメシか?」 ナミの声にゾロ以外の面々がナミの元に集まり、サンジが運んできた料理が机への上へと置かれた。 「コンパスが壊れちゃった!!!方角を示さない・・・」 「あ・・・ホントだ」 「ぐるぐる回ってんじゃん」 「うひょお、おもしれー!」 『壊れてないでしょ、磁場が強いだけだよ』 「磁場って・・・此処は何もない普通の岬よ!!?」 サンジ、ウソップ、ルフィもコンパスを覗き込むがティティは当然と言った顔をする為ナミに胸倉を掴まれる。 「お前達は何も知らずにここへ来たらしいな・・・呆れたもんだ命を捨てにきたのか?」 「え?」 『ナ゛、ナ゛ビ・・・ぐるじい゛・・・』 「メシか?」 「餌だテメーは・・・」 『ゴホッゴホッ』 「大丈夫か?ティティ」 クロッカスの言葉にティティから手を離し向き直るナミ。 「言ったはずだこの海では一切の常識が通用しない、そのコンパスが壊れているわけではないのだ」 「じゃあ、ティティの言う通り、磁場が?」 「そう、グランドラインにある島々が磁気を持った鉱物を多く含むため、航海全域に異常をきたしている、さらにこの海流や風には恒常性がない、お前も航海士ならばこの恐ろしさがわかるはずだ」 「確かに…方角を確認する術がにきゃ絶望的だわ・・・知らなかった、どんまい!」 笑顔で誤魔化すナミに一同騒然。 「オイ!そりゃマズだろ!大丈夫か!?」 「知らないナミさんも素敵だ!!」 『航海士としてどうなのソレ!』 「ちょっとあんたら黙っててよ!!!」 ティティの言葉に青筋を立てナミはクロッカスに先を促す。 「グランドラインを航海するにはログポースが必要だ」 「ログポース?聞いたことないわ」 「磁気を記録することのできる特殊なコンパスのことだ・・・」 「変なコンパスか?」 「まぁ、型は異質だな・・・」 「こういうのか?」 料理を堪能し通ルフィは先程拾ったコンパスを見せる。 「あぁ、それだ・・・そのログポースがなければこの海の航海は不可能だ」 「なるほど・・・でもちょっと待って、ルフィ・・・何であんたがそれを持ってんのよ!!!」 ナミは料理を頬張るルフィを殴リ飛ばす。 「これはさっき辺な二人組が船に落として行ったんだよ」 「あいつらが?」 「何でおれを殴る」 「ノリよ」 「ノリか」 ルフィが所持していた理由を知り落ち着いたのかナミはログポースを受け取り眺める。 「・・・これがログポース、何の地盤もない」 「グランドラインに点在する島々はある法則に従って磁気を帯びていることがわかっている・・・つまり島と島とが引き合う磁気をこのログポースに記憶させ次のしまへの進路にとするのだ、まともに己の位置すらつかめないこの海では、ログポースの示す磁気の記録のみが頼りになる・・・始めはこの山、リバースマウンテンから出る7本の磁気より一本を選べるがたとえどこの島からスタートしようともやがて引き合い一本の航路に結びつくのだ・・・そして最後にたどり着く島の名は“ラフテル”グランドラインの最終地点で、歴史上にもその島を確認したのは海賊王だけ、伝説の島なのだ・・・」 「ラフテル・・・」 「じゃあそこにあんのか!?ワンピースは!!」 「さァな、その説が最も有力だが誰もそこにたどり着けずにいる」 「そんなもん行ってみりゃわかるさ!!!」 自分達の最終目的地の情報に沸き立つ仲間に笑みを浮かべルフィはクロッカスの言葉を骨と共に噛み砕く。 「ぷっー、さーメシも食ったし!準備スっか!!」 「お前一人で食ったのかっ!!」 「うぉ・・・骨までねェし!」 膨れた腹を抱えるルフィを尻目にナミはログポースを腕に嵌めるティティは其れを後ろから覗き込む。 「ログポースか・・・大切にしなきゃ!これが航海の命運をにぎるんだわ」 『へぇ、今は便利なものがあるんだね』 「ティティが居た時には無かったの?」 『あったかもしれないけど、普及はして無かったね・・・そもそも、島と島との交流なんて無いに等しかったから』 「え!?物資とかどうしてたの!?」 『その島々で何とかしてたと思うよ?そもそも無から有を生み出せる魔導師にそんな心配なかったしね』 「おのれェクソゴム・・・俺はナミさん達にもっと・・・ナミさん達にもっと・・・食って欲しかったんだよォォォ!!!」 サンジの悲痛な声と共に蹴り飛ばされたルフィがナミの腕を掠め、ログポースが大破する。 「『っ!!?』」 「っ・・・何すんだ」 「思い知ったかクソゴム・・・」 「・・・サンジ君」 「は〜い、ナミさん!」 「二人とも、頭冷やして来ォーい!!!」 八つ当たりとばかりにサンジとルフィを海へ蹴り落とし、ナミは涙目で腕に嵌められたログポースを見つめる。 「オイ、ちょっと待て・・・ソレってもの凄く大事なモンじゃねェのか!!?」 「大切なログポースが!!」 「慌てるな私のをやろう、ラブーンの件の礼もある」 『本当!?良かったねナミ!クロッカスさんがくれるって!!』 「うん・・・」 焦るウソップとナミに見兼ねたクロッカスのにナミは再び笑みを浮かべた。 「ふへェ・・・死ぬかと思った・・・ん?」 「っ!」 しばらくしてラブーンによって岬へ打ち上げられたルフィとサンジ、そしていつの間にか消えた二人組が共に海から上がって来た。 「・・・さぁ、お手をどうぞハニー!」 「まぁ、ありがとう」 「いいお天気ですね!」 「おい!頼みがある・・・」 「あ゛ぁ?」 女にだけ手を差し伸べるサンジ、女は其の手を取り立ち上がると男は何かを決意したように一味に声を出す。 「ウイスキーピーク?変な名前・・・」 「何だそれ?」 「我々の住む町だ!・・・です」 「アンタ達自分の船は?」 「壊れちゃいました・・・」 『船が無くなっちゃったから私達を足に使う気なんだ?』 「「っ」」 見透かしたようなティティの言葉に二人組の肩が上がりナミは悪い顔で迫る。 「ムシが良すぎるんじゃない?Mr.9?クジラを殺そうとしといてさ・・・」 「お前ら一体何者なんだ?」 「王様です!」 「ウソつけ!」 「いで!!」 ウソップの問いに分かりやすく嘘をつく男の頬を抓り上げるナミ。 「言えません!!!」 「しかし!!!町へ帰りたいんです!!!私達だってこをんなコソコソしたくないんですが・・・」 「なにせ我が社は謎がモットー!」 「何も喋るわけにはいかないのです・・・」 「あなた方のお人柄を見こんでお願い申し上げます!」 「受けた恩は必ず返します!」 深々と頭を下げる二人に不信感を剥き出しにした視線が向けられる。 「やめておけ、何を言おうとロクなもんじゃないぞそいつらは・・・」 『誰もこの二人の言葉を鵜呑みにしてないよ』 忌々しげに吐き捨てるクロッカスに肩すかしするティティにナミが続く。 「ところで私達ログポース壊しちゃって持ってないのよ・・・それでも乗りたい?」 「な…なにィ!!壊しやがっただと!!?俺のじゃねェのかそりゃ!!?」 「下手に出てりゃつけあがりやがって…あんたらも何処へもいけないんじゃないか!!!」 ナミが腕を見せると立ち上がり怒りを露わにする二人にナミは嫌らしく笑う。 「あ!でも・・・クロッカスさんにもらったのがあったか」 「「っ!?」あなた方のお人柄でココは一つ・・・(ちくしょうカマ掛けやがったこのアマ・・・)」 ナミの言葉に二人は再び額を地につけ懇願する。 「いいぞ乗っても」 「「え!!?」」 「ウイスキーピークっつたか?ソコ行こう」 「えぇ!?マジかよ!正体不明の奴らを態々連れて行ってやるのか!!?」 「いいじゃん、細かいこたァ気にすんな」 ルフィの言葉に驚きに目を見開き顔を上げる二人組、ウソップの抗議にも動じないルフィ。 「しかし航路を選べるのは最初のこの場所だけだぞ?」 「気に入らねェ時はもう一周りすりゃァイイじゃん!」 「そうか!」 クロッカスの心配の声を払拭するルフィの笑顔に釣られ笑みを浮かべるクロッカス。 「さぁ、ソロソロ行くか!クジラと約束したし、そろそろ出航の準備だ!」 「あなた・・・一体何者なの?」 「俺か?俺は・・・海賊王になる男だ!!!」 「「・・・・・・」(バカな海賊・・・)」 女の問いに不敵に笑ったルフィを二人は静かに笑い飛ばす。 『とりあえず着替えようかな・・・いつまでもナミの服を借りとく訳にもいかないし・・・』 「あ、私も!すっかり汚れちゃったし着替えなきゃ!」 ティティと共に船の自室へ戻り着替え岬へ戻ったナミはクロッカスから新たなログポースを受け取りウイスキーピークへのログを溜める。 「まだ修理が終わってねーんだ!テメーら乗るなら手伝え!!」 「「はぁ!!?」」 『乗せてもらうなら当然の対価だよ』 ウソップの言葉に眉を寄せる二人組を促すように目を細めるティティに肩を揺らし動く二人。 「なんだオメーアイツらに随分当たるなァ・・・」 『あの二人・・・というより、ミス・ウェンズデーの方かな?』 「ん?」 『血の匂いがする・・・』 「へぇ!!?ま、まさか人殺・・・――!」 『うーん、そういった類のものじゃ無いと思うけど・・・』 修理が終わった頃には日が傾きだしていた。 「そろそろよかろう、ログがたまったはずだ・・・海図通りの場所を指したか?」 「うん大丈夫!!ウイスキーピークを指してる」 ナミはログポースをと海図を見比べ指針が定まった事を確認し笑みを浮かべる。 「じゃあな花のおっさん、ログポースありがとう!!」 「あぁ、行って来い!」 「じゃあな!行ってくるぞクジラァ!!!!」 大きな声でルフィに応えるラブーンにルフィは前を見据え腕を天へと向けた。 「ウイスキーピークへ向けて・・・全速前進!!!」 「「「『オォォォ!!!』」」」 ルフィに呼応し新たな冒険に胸を躍らせ岬を離れるその船を見送り咆哮するラブーン、笑みを浮かべ静かにクロッカス呟いた。 「あいつらが、我々の待ち望んだ海賊達だろうか・・・何とも不思議な空気をもつ男だ、なァロジャーよ・・・」 [*前へ] |