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ひとつなぎの願い
双子岬の鯨
「このクジラが・・・ラブーンがレッドラインに頭をぶつけ始めたのだ・・・」
「「何!!?」」

驚きの事実にさして興味を示していなかったサンジとゾロは声を揃え驚く。

「そういえばこのクジラ、額にスゴいキズがあった・・・空に向かって吠えていたし」
「どーいうことだ?」
「苦しんでるのよ!!」
「そっか・・・それがあのジジイの狙いか!!?」
「多分・・・体の中からこのクジラを殺す気なんだわ!」
「あくどいやり方しやがるぜ!!」

眉を寄せるナミとウソップを見やりクロッカスへと視線を戻すティティ。

『別に捕鯨事態は問題ないんでしょ?』
「あぁ・・・」
『じゃあ良いんじゃない、自分より大きいモノが相手なんだもん知恵だって絞るよ』
「そうだな・・・謎が解けたらさっさとここ出るぞ、ボヤボヤしてると俺達の方が溶けちまう」
「まァ捕鯨をとやかく言う気はねェし、クジラを助ける義理もねェ・・・脱出しよう!」

三人に促され動くナミとウソップ。

「って、くっそォ!こう波がうねってちゃ扉までたどり着けるかどうか・・・!!!」
「漕ぐしかねェだろ!オールを持て!!」

弱音を吐くウソップに活を入れるゾロ。

「早くでましょう!!ルフィの事も気がかりだし・・・」
「あいつは外だ!口の外へはじき出されるのを見た!!」
「あっ、おじいさんが飛び込んだわ!?」
「あ?何する気だ、溶けちまうぞ・・・」

ルフィを気に掛けるナミにゾロが答えている中胃液の中に飛び込むクロッカスに一同眉を寄せる。

「・・・とにかく急ごう!」
『そうだね、メリー号が溶けちゃったら私達だって胃酸の海につからないといけなくなる!』
「え、えぇ!とにかく漕ぐのよ!!」

サンジ、ティティに促されナミが全員に号令を掛ける。

「ん?おい、じいさんが出て来たぜ!」
「ほっとけ、それよりこの扉をどう開けるかだが・・・」

扉の前まで来た一同は扉の開け方が分からず手を止めると扉の横に備えられた鉄の梯子に手を掛けるクロッカスを発見したウソップだがゾロに一喝される。

「ティティ、扉を開ける魔法は無いの?」
『鍵を掛けたり解いたりって魔法は有るけど扉自体を開ける専用の魔法は無いよ』
「んじゃ力ずくか・・・」
「いっそ壊すか?」
『うん、それなら楽!』
「バカ!!さらにクジラが暴れたらどうすんのよ!!!」

ナミとティティの言葉を聞き呟くサンジとゾロの意見に同意しようとしたティティにナミの拳が落とされる。

『何で私!?』
「近いからよ」
『理不尽!』
「てか他に便利な魔法があるでしょ!?出し惜しみしてないで出しなさい!」
『やぁー!』

じゃれ始めた二人の頭上から複数の叫び声、自然と全員の視線は其方へ向く。

船を進めているとルフィと知らない人が男女の二人組が落ちて来た…

「マズいぞミス・ウェンズデー!下は胃酸の海だ!!」
「いやーっ!!!」

見知らぬ男女のと共に宙を舞うルフィにゾロが思わず名前を呼ぶ。

「ル、ルフィ・・・!?」
「よォ!!みんな無事だったのか!とりあえず助けてくれ!!」

仲間の無事を知り安堵したルフィは自分の置かれてる状況に即助けを求めると胃酸の海へと飛沫を上げ男女と共に落ちた。

「ルフィは置いといてまた二人変なのがいるんだけど・・・」
「ねぇ、おじいさんが消えたわ」
「ほっとけ・・・ひとまずルフィを助けるぞ」

怪しい二人組の存在を気にするウソップいつの間にか視界から消えたクロッカスを気に掛けるナミを振り払い胃液へ飛び込むゾロ、サンジは梯子を下ろすと怪しい二人組がその梯子を掴む。

「い”!!?」
「なっ!アイツら・・・」
『えいっ!』
「「ぶっ!!!」」
「「「ええぇぇぇ!!?」」」

梯子に手を掛けた二人の顔面に足を置き胃液へと再び叩き落とし自分だけ宙へと留まるティティ。

『断りなく他人の船に上り込もうとするなんてどうかと思うよ?』
「いや、容赦なく蹴り落とすお前がどうかと思うよ!!?」

杖を片手に宙で腕組みするティティに突っ込むウソップ。

「ティティ、アンタ空飛べるのね・・・」
『?魔導師が空を飛ぶのって当たり前でしょ?』
「いや!お前らの常識なんて知るわけねーだろ!!」
『それもそうだね・・・ごめん』
「とりあえずティティちゃん、遭難者は助けるのが海に出たもののルールだ、一先ずそいつ等引き上げよう、悪い奴なら叩き落としゃぁ良い」
『うん、わかった』

サンジに窘められ怪しい二人組に首根っこを掴みメリー号の甲板へと二人を放り投げるティティ。

「!!?」
『サンジ?』
「か・・・可愛らしいお嬢さ〜ん!!!」
「「『・・・・・・』」」

甲板に座り込む女に過剰反応したサンジにナミ、ウソップ、ティティは呆れ顔で其れを見る。

「おい、ティティ」
『ん?』
「ついでだルフィも頼む」
『うん、ルフィ掴まって』
「あ゛い゛がどう・・・げぼっ!」

ルフィを回収して来たゾロからルフィを受け取り甲板へと降りティティ達に続きゾロも梯子を上げり甲板に足を着ける。

「っ・・・治まった、クジラが大人しくなったわ」
「そうみたいだな」

激しく揺れていた胃の中は静けさを取り戻すように波が治まっていく。

「さて・・・とりあえず助けてはやったが・・・――」
「ティティがな」
「うるせぇ、お前ら何者だ?」

ウソップの横やりを流し、ゾロの鋭い眼光が怪しい男女を射抜き二人は委縮し身を寄せ合う。

「(Mr.9・・・こいつら海賊よ・・・)」
「(わかってるよミス・ウェンズデー・・・ぁあ、だがしかし、話せば分かるはずだ・・・多分・・・)」
「まだ居たのかゴロツキ共!」

小声の相談は上からの威圧的な声に全員の視線は二人組から戻って来たクロッカスへと向けられる。

「何度も同じことを言わせるな!私の目の黒いうちは、ラブーンには指一本触れさせんぞ!!!」
「戻って来た・・・」
「誰だ?あのおっさん」

来たばかりのルフィはクロッカスに首を傾げるが答える間もなく怪しい二人組はバズーカを手に立ち上がる。

「フフフ・・・そう言われても帰るわけには行かないわ」
「このクジラを仕留めるのが我らの任務・・・今日こそは我々の捕鯨の邪魔はさせん!この胃袋に風穴を開けてやる!!いくぜベイベー!!!」
「ラジャー!!」

二人は同時に引き金を引き胃の壁に放たれた砲弾に自ら飛び込み防ぐクロッカスに麦わら一味は目を瞠る。

「「『っ!!!』」」
「あのおっさん自分から弾に!!?」
「まさか・・・このクジラを守った!?」
「オホホホホホ!ムダな抵抗はよしなさいっ!!」
「そんなに守りたきゃ守ってみろ!!このクジラは我々の町の食糧にするのだ!!!」

ルフィは静かにクロッカスから高笑いを上げる二人組へ顔を向ける。

「どうなってんのっ・・・」

自分達の想定とは違う現状に戸惑いの声を漏らすナミ。

「「オホホホホホホホホホッ・・・―――ぐぁ!」」

外側からの衝撃で互いの頭をぶつけ、痛々しい音と共に倒れる二人組。

「ルフィ・・・?」
「なんとなく殴っといた!!」

恐る恐る声を掛けるウソップに胸を張り答えるルフィ

『どうするの?この二人・・・』
「そうだな・・・とりあえず縛っとけ」
「あ、そうだ!あのおじいさんは!?」
「大丈夫だナミさん、くたばっちゃいないよ」

二人組を縛り上げクロッカスを救出した一同はクロッカスの家のある島で話を聞いていた。

「助けてくれた事には礼を言おう・・・だが何故だ?」
「助けたワケじゃねェ!なんとなく気に入らなかったんだ!!」
「ん?」
「ねぇ、コイツらは何なの?アナタはこのクジラの中で何をやってるの?」

ルフィの言い分に首を傾げるクロッカスにナミは矢継ぎ早に問い掛けた。

「こやつらは、近くの町のゴロツキ共だ、このクジラの肉を狙ってる・・・そりゃあラブーンを捕まえれば町の二、三年分の食糧になるからな」
「ラブーン?」
「このクジラの名だ・・・アイランドクジラといってなウエストブルーにのみ生息する世界一デカい種のクジラさ」

胃袋に描かれた空を見上げ目を細めるクロッカス。

「食糧に等させるものか・・・こいつがレッドラインにぶつかり続けるのにもリヴァース・マウンテンに向かって吠え続けるのにもわけがあるんだ」
「訳?」
「あぁ・・・コイツはな、人の心を持ったクジラなんだ・・・そしてひたすらある海賊を待ち続けている、50年間も・・・聞くがいいラブーンの物語を!」

話を始めようとするクロッカスに待ったが掛かる。

『その前にココ出ようよ』
「だな、メリー号が溶けちまう」
「ってお前ら早々に話の腰を折るなよ!」
「『年寄りの話は総じて長い!』」
「うっ・・・確かに」
「そうだな、話なら道すがら出来るだろ」

ティティとゾロの言い分に二の句が出ないウソップ、さらに同意したサンジに一同メリー号に乗り込みクロッカスに先導され扉から先の水路を進む。

「――・・・もう50年も前の話になる」
「50年!?」
「だから吠え続けてるの?体をぶつけて壁の向こうに・・・」

クロッカスは麦わらの一味に語った、五十年前ある海賊団と共に偉大なる航路へと訪れたラブーンの話を・・・ラブーンが仲間と交わした約束を・・・未だ果たされず、仲間を待ち続ける悲しき物語を・・・

「しかしすげェ水路だな、腹にこんな風穴開けてよく生きてんな」
『生命の神秘だね』
「これも遊び心か?じいさん」
「医者の遊び心だ!」
「医者!?」
「私はこれでも医者なのだ、昔は岬で診療所もやっいていた・・・数年だが船医の経験もある」

鉄で覆われた水路に感嘆するゾロ、ティティ、サンジに訂正を加えるクロッカスにウソップは驚きの声を上げルフィが其れに反応する。

「船医!?本当かよ!!じゃうちの船医になってくれ」
「バカいえ、私にはもうお前らの様に無茶をやる気力はない」
「医者か・・・それでクジラの体の中に」
「これは治療の痕なのね・・・」
「そういうことだ、これだけデカくなってしまうと、もう外からの治療は不可能なのだ・・・開けるぞ」

クロッカスは話ながらラブーンの腹にある扉を手で開けると目の前に絵では現せない明るく澄んだ青空が広がる。

「フーッ出たァ!!!本物の空!!!」
『やっぱり空気が違うね!』
「あぁ!潮の香りがスゲー気持ちい!!!」

ルフィ、ティティ、ウソップは胸いっぱいに空気を吸い込み笑みを零す。

「しかし50年かァ・・・ずいぶん待たせるんだなーその海賊達も」
「バーカここはグランドラインだぞ?死んでだよ・・・もう幾ら待とうが帰って来るもんか」
「確かに50年前と言えばココは今より危険な前人未到の海域だった訳だもんね・・・」

空気を堪能したウソップはクロッカスの話を思い返し呟くとサンジが紫煙と共に呆れた様に呟きナミも其れに同意した。

「テメーら、何でそう夢のねェ事言うんだよ!まだ分かんねェだろーが!!帰って来るかもしれねェ!!!イイ話じゃねーかよ・・・仲間との約束を信じ続けるクジラなんて!!そうだろ、おっさん!!?」
「あぁ・・・だが真実は残酷なものだ・・・確かな筋の情報で確認済みだ彼らは逃げ出したのだ、このグランドラインからな・・・」
「そんな・・・まさか、このクジラを置いて!?」
「グランドラインを出たって、カームベルトを生きて出られたって事?」

感極まったウソップはクロッカスに同意を求めたが帰って来たものは期待していたモノではなく、ナミも驚き問うた。

「たとえ生きていたとしても二度とここへは戻るまいよ・・・季節・天候・海流・風向き全てがデタラメに巡り一切の常識が通用しないこの海、グランドラインの恐怖はたちまち弱い心を支配する・・・」
「心の弱いそいつらはてめェの命惜しさに約束の落とし前もつけずにこの海からとっととズラかったって訳だ」

クロッカスの言葉に納得するサンジ。

「見捨てやがったのか、このクジラを!?コイツは50年も待ち続けてるのに!!?そりゃ酷いぞ!!!」
「それが分かってるんだったらどうして教えてやんないの?このクジラは人の言うことが理解出来るんでしょ?」
「言ったさ包み隠さず全部な、だが聞かん・・・」
『聞かない?』

過去真実を伝えようとしたクロッカスの言葉を阻むように声を張り上げ聞く耳を持たないラブーン。

「それ以来だ、ラブーンがリヴァース・マウンテンに向かって吠え始めたのも、レッドラインに自分の体をぶつけ始めたのも、まるで今にも彼らはあの壁の向こうから帰ってくるんだと主張するかの様に・・・!」
「何てクジラだよ・・・」
「待つ意味もねェのに・・・」
『頭では解かってるんだろうね、だけど認めたくない・・・ついていかないんだよ心が・・・』
「そうだな・・・待つ意味をなくすから私の言葉を拒むんだ、待つ意味を失う事が何より恐いのだ・・・コイツの故郷はレッドラインの向こう側ウエストブルーすでに帰り道はない・・・だからここへ一緒にやってきた彼らだけが仲間であり希望だったのだ」

サンジ、ウソップ、ティティの言葉に頷きクロッカスもラブーンの心情を口にする。

「・・・でもよ、確かにコイツは可哀想な奴なんだが、言ってみりゃあんただって裏切られてんだぜ?もうほっといてもいいんじゃねェのか?」
「こいつの額のキズを見てみろ、このまま加減なく頭をぶつけ続ければ間違いなくこいつは死ぬ・・・妙なつき合いだが50年も一緒にいるんだ、今さら見殺しにできるか!」

サンジの正論に首を横に振り否定するクロッカスすると雄叫びを上げ話を聞いていたはずのルフィがラブーンを全力で駆け上がっていた。

「うおおおおおっ!!!」
「「は!?」」
「何やってんだあのバカまた・・・」
「ちょっと目を離したスキに・・・」
「山登りでも楽しんでんのかね・・・」
『あれ・・・ルフィが持ってるのって・・・』
「ゴムゴムのォオオオオ生け花!!!!」

ルフィはラブーンの額に手にしていたマストを突き刺した。

「・・・ありゃマストじゃねェか?」
『うん、マストだね』
「そう、おれ達の船の・・・」
「メインマストだ・・・って、船壊すなよォォォ!!!」

ゾロ、ティティ、サンジと冷静に頷きウソップも同意すると徐々に顔を青くした。

「「「「『何やっとんじゃお前っ!!!!』」」」」

痛みのあまり暴れ出すラブーン、頭上に居るルフィを振り落とそうと激しく頭を振り体を岬に叩きつけルフィを押しつぶす。

「なっ!おい小僧!!!」
「大丈夫あいつ潰れたって死なないの!!」

激しく波打つ中船体にしがみ付きその光景に目を見開くクロッカスにナミは平気だと伝える。

『(血の、臭い・・・)』
「おいティティ!」

頭を岬にぶつけた事でマストが外れ傷口から大量の血が噴き出るラブーン・・・其の匂いに身を折るティティをゾロが支え船体にしがみ付かせる。

「へへっばーか!」

ルフィの挑発めいた言葉に怒りを覚えたのかラブーンはルフィに襲い掛かり其れに応える様にルフィもラブーンに攻撃を仕掛ける。

「何のつもりだよ・・・!」

吹き飛ばされても尚攻撃を続けるルフィに戸惑うウソップ。

「ルフィ!!てめェ一体何がやりてェんだ!!!」

灯台に飛ばされ地に落ちたルフィを見兼ね、止めるゾロ、構わずルフィに突っ込んでくるラブーンにルフィは口角を上げ立ち上がる。

「引き分けだ!!!!」

其の言葉にラブーンの動きが止まる。

「俺は強いだろう!!!俺に勝ちたいだろうが!!?」

傷だらけの体で笑みを向けるルフィ。

「俺達の勝負はまだついてねェんだ!だからまた戦わなきゃならない・・・お前の仲間は死んだけど俺はずっとお前のライバルだ!必ずもう一度戦ってどっちが強いか決めなきゃならない!!俺達がグランドラインを一周したらまたお前に会いに来る・・・そしたらまたケンカしよう!!!!」

笑顔で向けられた言葉にラブーンの瞳から大粒の涙を流し大きく咆哮した。

「ったく、もぉ・・・無茶ばっかして・・・」
「でもコレであのクジラがココで待つことは無意味じゃ無くなるな!」
「あぁ・・・って、ゾロォォ!!テメーティティちゃんに何やってんだ!!!」
「あ゛ぁん?」

安堵の息を吐いた一行だがゾロに支えられるティティに視線を其方に向ける。

「ちょっと、どうしたのよティティ」
『・・・血の臭いに酔った・・・』
「お前ホントに大丈夫か!!?」
「本当に海賊出来るの!!?」

戦闘を繰り広げるサンジとゾロを差し置きナミとウゾップは欄干に背を預けるティティに焦る。

『本来、魔導師はその圧倒的武力の為・・・中立であれと、私みたいな攻撃特化型の魔導師は、戦場に出られないように何かしらの呪が掛けられてるから、突然の流血沙汰はちょっと・・・』
「その辺注意してないとすぐこうなる訳ね・・・(ちょっと熱いな・・・微熱程度だけど)」
「たくっ・・・しょーがねェな、その辺は俺が守ってやる!」
「『え?』」
「俺の危機察知能力をバカにすんなよ!ティティは俺と一緒にいりゃあ大・丈・夫!」
『ウソップ・・・ありがとう』
「(血に酔わなきゃティティの攻撃力って大砲なんて目じゃないもんね・・・)ティティは少し休んでなさい、他は各自船の修理等お願いね!あれ?あの二人組・・・ま、いっか」

ナミの指示でそれぞれ動く一同。


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