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標的26 終わりとそれから
「骸・・・貴方を倒さなければ―――・・・死んでも、死に切れない」



いつも破れる筈の服は破れずその形を維持したまま

いつもの荒々しい炎ではなく額には静かにオレンジの炎が揺らめいている

新奈の姿に目を見開き柿本は距離を一気に開けた



「その頭部のオーラ・・・成る程・・・特殊弾が命中していたのですね
しかしランチアと戦っていた時には、もっと荒々しかったようですが・・・」

「小言弾はニーナの静なる闘志を引き出すんだ
死ぬ気弾とはまるで違う、全く新しい力を秘めた弾だからな」

「フッ・・・僕には戦意喪失し、意気消沈しているようにしか見えませんがね
どのみち、僕のスキルの前では敵ではない」



リボーンの言葉を鼻で笑い飛ばし柿本の言葉と共に城島が新奈に飛び掛る

が顔を押さえつけその勢いを殺し額を押さえつける



「!!?」

「まだですよ」



新奈の肘鉄を顔面に受けた城島が吹き飛ぶ

言葉と共に柿本のヘッジホッグから毒針が放たれるが新奈は動かない



「(彼は幻覚・・・)」



新奈は自分の左側に何かを感じ其方に視線を向けると同時に其処へ駆け出し拳を振るった



「(そこ!)」



其れまで誰も居なかった筈の其の場所に居た柿本は床へと倒れ

手元から勢いよく離れた三叉戟 さんさげき は壁へと刺さる



「なに!?バカな・・・」

「奴は、地獄道の幻覚を見破れなかったはず・・・」

「これこそ、小言弾の効果だぞ
ニーナの内に眠る“ボンゴレの血 ブラッド・オブ・ボンゴレ ”が目覚めたんだ・・・
死ぬ気弾が危機によるプレッシャーで外部からリミッターを外すのに対し
小言弾は秘めたる自分自身の意志に気づかせることにより、内部から全身のリミッターを外す弾だ
そして、同時に内面にある感覚のリミッターも解除する
それは即ちボンゴレの後を継ぐ為にのみ発現する力・・・超直感だ」



獄寺、ビアンキの口から出た言葉にリボーンはワザワザ丁寧に説明を添える



「超直感・・・?」

「ボンゴレファミリーの初代ボス・・・その初代ボンゴレが持っていたとされる
全てを見透かす力の事だ・・・ここに来るまでの戦いで
ニーナもその片鱗を見せ始めていたからな・・・フッ、まーまだグローブの使い方がなっちゃいねーがな」



リボーンの解説に骸は獄寺の顔で笑った



「クフフフ・・・つくづく君は面白い、しかし攻撃が見切れたとしても君は僕に勝てない・・・
忘れたわけじゃありませんよねぇ・・・これはお仲間の体ですよ、手を上げられるんですか?・・・出来ますか!」

「出来るんですか?」



右目にインディゴの炎を灯した獄寺が肘で同じく炎を灯したビアンキが足で一気に新奈に攻撃を仕掛けてきた

二人に挟まれ次々拳を向けられるも新奈は攻撃しようとはしない其れに骸はまた笑う



「クフフ、やはり手も足も出ませんか」

「良いサンドバッグですね」

「ちげーぞ、お前の攻撃はヒットしていない」



リボーンの言葉に攻撃を受け流されていることに気づいた骸は目を瞠る



「ガードしても避けても、ビアンキたちの体に負担がかかっちまう・・・
ニーナは今―――・・・自分の体で攻撃を流して、二人の体を守っているんだ」



獄寺の拳を流し背後を取った新奈はその首筋に手刀を入れる



「クッ、体が・・・」

「打撃で神経を麻痺させる戦い方を直感したな」

「直感しただと?ふざけたことを!」



今度はビアンキの攻撃を流し、再び背後を取り手刀を決めた



「くそ・・・」



新奈は両の手を広げ二人の体を優しく抱きとめた



「・・・待たせて、ごめんね・・・リボーン、処置をお願い」

「急に威張んな・・・」



二人をゆっくりと床へ寝かせリボーンへと声を掛け

新奈の言葉に救急箱を持って二人の処置にあたるリボーン



「・・・・・・出て来なさい、骸・・・生きてるんでしょう?」

「クフフ」



新奈の言葉に答える様に劇場の奥から特徴的な笑い声と共に

頭から血を流しているが平気な顔で現れた六道骸



「フッ、格闘センスが格段に向上していることは認めましょう・・・
だが、この程度で図に乗ってもらっては困りますね
僕が持つ六つある戦闘スキルのうち、まだ一つだけ発動していないことにお気付きですか!?」

「第五の道、人間道だな」

「その通り、我々の生きるこの世界が、人間道です、そして実は、六つの冥界のうち最も醜く危険な世界だ」

「・・・!」

「皮肉ではありませんよ・・・ゆえに僕は
この世界を嫌い・・・このスキルを嫌う、できれば発動させたくなかった―――・・・」



骸は、自分の右目を指で突き刺す痛みからか骸の声が途切れる



「この人間道は最も醜く―――・・・」



骸が右目から指を抜くと、瞳は“五”の文字に変わっていた

体が闘気 オーラ に蝕まれるように体の各部が侵食されている



「・・・最も危険な能力ですからね」



骸の体から、真っ黒な闘気 オーラ が噴き出し新奈は目を細め拳を握る



「っ・・・!」

「どす黒いオーラだな」

「見えますか?オーラを放出しながら戦うタイプの戦士にとって―――・・・
吹き出すオーラの大きさが、すなわち―――・・・強さ!」



一直線に向かってきた骸の昆による攻撃を受け止める新奈だが

後ろへ押されてしまう・・・拳を腹に入れられ新奈の体は浮き上がる



「君と僕とでは―――・・・力の差がありすぎる!」



骸は昆を回転させ勢いをつけ新奈へ強力な一撃を入れる

殴り飛ばされた新奈は壁に体を打ちつけ瓦礫と共に床へと落ちた



「クハハハハ!脆いですねぇ・・・ウォーミングアップの、つもりだったのですが」

「・・・―――で、なくっちゃね・・・」



骸の声に答える様に立ち上がった新奈は己の額にグローブをかざし

拳に炎を灯す・・・勢いを増した炎に骸の顔色が変わる



「なに!?オーラが・・・!?」

「貴方の力がこんなものなら―――・・・拍子抜けよ」

「分かってきたみてーだな、グローブの意味が・・・
] イクス グローブは死ぬ気弾と同じ素材でできている
どっちもレオンから生み出されたモノだからな・・・だから死ぬ気の炎を灯すことが出来るんだぞ」



その様子を見て、骸はフッと笑った



「まるで毛を逆立てて体を大きく見せようとする猫ですね
だが、いくらオーラの見てくれを変えたところで無意味だ」

「死ぬ気の炎はオーラじゃないわ」

「ほう・・・面白いことを言う、ならば見せて―――・・・もらいましょうか!?」



突っ込んできた骸の攻撃を片手で受け止めると

其の部分はいとも簡単に捻じ曲がり、グローブが骸の頬を掠めた



「なっ!?っ!!(熱い・・・!!!オーラが熱を帯びている!?)」

「死ぬ気の炎とオーラでは、エネルギーの密度が違うからな・・・
限られた人間の目に見えるだけのオーラと違って
死ぬ気の炎はそれ自体が破壊力を持った超圧縮エネルギーだ」

「そのグローブは、焼き鏝 ごて という訳か・・・」

「それだけじゃないわ」



早いとは言えないスピードで駆け出し新奈に骸は昆を振り切るが其処に新奈は居なかった



「!?・・・消えた?」



新奈は、骸の背後に移動していた



「バカな!何時の間に!?」



新奈は骸の顔面目掛けて拳を打ち込むが骸は

折れた昆でそれを受け止めたがそのまま後ろに飛ばされ倒れる



「何だ、今のは・・・?奴は何をしたんだ・・・」

「ウォーミングアップはまだ終わらない?」

「くっ・・・」



焦りの色を見せる骸と違い新奈は静かに問いかけた



「・・・クフフ・・・クハハハハハハッ・・・!!ここまでとは嬉しい誤算だ・・・」

「・・・?」

「君の肉体を手に入れれば
謀略を張り巡らせずとも、直接ファミリーに殴り込み、マフィア間の抗争を起こせそうだ」

「!・・・マフィア間の抗争・・・」

「それが、お前の目的か」



ゆっくりと立ち上がる骸先程の焦りは全く感じさせず笑みさえ浮かべていた・・・



「クフフ・・・まさか・・・僕はそんなちっぽけな男ではありませんよ・・・
僕は、これから世界中の要人を乗っ取るつもりです・・・
そして彼らを操り、この醜い俗界を純粋で美しい闇で塗りつぶす・・・
世界大戦・・・なんてベタすぎますかね」



リボーンの問いに骸は横顔で微笑んだ・・・新奈達に振り返った時其の表情は無かった



「だが、手始めは矢張りマフィア―――・・・マフィアの殲滅からだ」

「何故マフィアにこだわる・・・?」

「・・・怨み?」

「おっと、これ以上話すつもりはない・・・君は、僕の最強形態によって僕のものになるのだから」



一転、余裕の笑みを浮かべる骸・・・その影だけが、新奈に向かって来た



「見るが良い!」

「・・・幻覚よ、こんなもので―――・・・ぅっ!!?」



幻覚と確信しその場から動かなかったの体や目に細かな物が当たり膝を着いた



「・・・油断しやがって、バカニーナが、骸の奴、幻覚に礫 つぶて を潜ませたな」

「くぅ・・・」

「(もらった―――・・・!!!)」



痛みで動けない新奈に好機とばかりに骸は空中から襲い掛かった



「ニーナ」

「っ・・・分かってる!!」



グローブに強く炎を宿し、またも一瞬ににて骸の背後を取った



「っ・・・また背後に!?・・・ぐぁ!」



全体重を掛け渾身の力で殴り飛ばし、骸の体を床に叩きつた・・・

凄まじい轟音と共に舞った埃が晴れると骸は新奈へと顔だけ向ける



「ぐふっ・・・!」

「・・・・・・」

「クフフフ、これが・・・ボンゴレ十代目・・・僕を倒した、女か・・・さぁ、トドメを刺せ・・・」

「!?」

「君たち・・・マフィアに、捕まるぐらいなら、死を選ぶ」

「・・・私には、そんなことは出来ない―――・・・」



思わず骸から視線を逸らし背を見せた新奈に

骸は笑みを浮かべ其の背に襲い掛かり両腕を拘束した



「っ!」

「その甘さが命取りだ」

「っ骸、貴方・・・!」

「おっと」

「っあ!」

「君の妙な技が手の炎の力で起きているのは分かっている・・・手を封じれば、怖くありませんよ!」



互いに両手が使えない状態で骸は新奈に頭突きを食らわせる・・・

小手先の技の無い男女の肉弾戦となればどちらが有利か一目瞭然



「あ”ァ・・・!」

「何故、多くの刺客に君を狙わせたのか分かりますか?」

「くっ・・・(腕力だけじゃ振りほどけない・・・!)」

「君の能力を充分に引き出してから乗っ取る為だ・・・ご苦労でしたね!」



骸の頭突きで足元の覚束ず

体勢の崩れた新奈の手を引き其の腹に蹴りを入れられ新奈は思い切り飛ばされた



「もう休んで―――・・・良いですよ!」

「ぐっ」

「飛ばされた先を見るが良い!」

「っ!!」

「クフフ、空中では受身が取れまい!君はそのくだらぬ優しさで、自分を失くすのです!」



目線の先には、壁に突き刺さった三叉戟がその刃を光らせていた



「行け、ニーナ!今こそ]グローブの力を見せてやれ」

「っ・・・アァァ!!」



リボーンの声を合図に新奈はグローブから、大量の炎が噴出させ宙に留まった



「な!!炎を逆噴射だと!?」

「死ぬ気の炎の推進力を使った高速移動だ」



そのまま噴射の勢いを殺さず、骸に向かって一直線に向かいその額を掴み骸の闘気を消し去った



「うわあぁあ!!!!」

「死ぬ気の炎が、骸のどす黒いオーラを浄化したな」



勢いに任せ骸と舞台下の壁に突っ込み床に倒れた骸の額から炎を纏った手を離した

其のまさに同時に、壁に刺さっていた三叉戟に亀裂が生じ音を立て、粉々に砕けた



「終わったな・・・」

「・・・・・・・・・うん」



黙って骸を見つめ、額から炎の消えた新奈は静かに頷く



「あっ!皆の怪我は!」

「心配ねーぞ、ボンゴレの医療班が到着した
ランチアの毒も、用意してきた解毒剤で間に合ったそーだ」

「そう、良かった・・・」



レオン携帯を手にしたリボーンの返事に新奈は安堵の息を吐き骸の側に膝を着いた



「骸・・・死んでないわよね?・・・無事、ね・・・」

「ったく、甘いな・・・お前は」



骸の首筋に触れ脈を確認し再度息を吐く新奈にリボーンは呆れた様に息を吐いた



「近付くんじゃねえびょん!!!マフィアが、骸さんに触んな!!」



骸の憑依から開放され、城島と柿本が床を這い骸へと寄っていく



新奈は城島の言葉に骸から手を離し立ち上がった



「貴方達・・・何で?なんでそこまで骸の為に?
貴方達は骸に憑依されて、利用されていたのに・・・」

「分かった風な口を聞くな・・・」

「これくらい屁とも思わねーびょん、あの頃の苦しみに比べたら―――・・・」

「あの頃・・・?」

「何があった?何故そこまでマフィアを憎む?」



柿本、城島の言葉に眉を寄せる新奈とリボーンの疑問に城島は自嘲の笑みを浮かべ話した



「オレらは自分のファミリーに、人体実験のモルモットにされてたんだよ」

「・・・え!?」

「・・・やはりそうか、お前たちは禁止された憑依弾を作ったエストラーネオ・ファミリーの人間だな」

「アレを禁止したのはテメーらの都合でつけたんだろーが・・・
その所為でオレらのファミリーは徹底的に潰されていったんだ」



城島は血を流しながらもゆっくりと体を持ち上げ前へと進む



「追い詰められたファミリー上層部は生き残るため、特殊兵器開発に拍車をかけた・・・
その実験にの為ファミリーの子供達が集められ・・・過酷な実験の日々・・・
オレたちに逃げる術はなかったびょん・・・
でもあの人は、たった1人で、現状をぶっ壊したんだ・・・
大人しくて目立つタイプじゃなかった
声を聞いたのも、その時が初めてだった気がする」

『クフフ、やはり取るに足らない世の中だ全部消してしまおう―――・・・』

「この時、生まれて初めて・・・」

『一緒に、来ますか?』

「オレらに、居場所ができた―――・・・それをオメーらに壊されて溜まっかよ!」



その言葉は新奈の胸に深く突き刺さった彼等には彼らの居場所が・・・

けれども気持ちを落ち着け新奈は城島を真っ直ぐ見返した



「でも、私だって・・・仲間が傷つくのを黙って見てられない
・・・だって―――・・・そこが、私の居場所だから」

「ぐっ・・・!」

「・・・・・・っ」



新奈の言葉に城島と柿本もまた言葉を詰まらせる・・・

その緊張した空気を入り口からの訪問者が破った



「?・・・医療班の――・・・!?」



だが、彼らは突然、城島、柿本に続いて骸に、鎖で繋がれた首輪投げ付けた



「早ぇお出ましだな」

「・・・・・・誰!?」

「“復讐者 ヴィンディチェ ”・・・マフィア界の掟の番人で、法で裁けない奴らを裁くんだ」



黒装束に身を包み、包帯で顔を覆った三人の番人は鎖で繋がれた骸達を引きずる

城島と柿本は意識がある為呻き声を上げるが骸は全く動かない

駆け寄ろうとする新奈をリボーンは咄嗟に静止する



「ちょっ・・・何してるんですか!?」

「止めとけ、ニーナ」

「!?」

「奴らに逆らうと厄介だ・・・」

「でも・・・!」

「これが掟だ」

「あの三人、どうなるの?・・・あっ!ランチアさんも!」

「罪を裁かれ、罰を受けるだろーな」

「・・・罰?・・・・・・罰って?」

「さーな・・・だが、軽くはねーぞオレたちの世界は甘くねーからな」

「っ・・・」



もう姿がない復讐者の番人の居た場所に目を向ける新奈

今度はそこから白衣を着た人達が数名入ってきた



「お待たせしました!怪我人は!?」



本物の医療班の手で次々に担架で運ばれていく仲間たちを見て

新奈の息を吐いた、その時新奈の腕を中心に激痛が走った



「い”っ!?たぁ”ぁ”ぁ”ぁ”」



余りの痛みに耐え切れず膝を付く



「〜っ!!いっ!!何・・・コレ!?体中痛い・・・!?」

「小言弾のバトルモードは、すさまじく体を酷使するからな
体への負担が筋肉痛となって返ってきたんだ」

「うそぉ!!?これ筋肉痛!!?ありえないくらい・・・・・・痛い―――・・・っ!!」



新奈は声無き叫びを最後に床に倒れ動かなくなった



「あまりの痛みに気を失いやがった、まだまだがっつり鍛えねーとな・・・
でも、九代目の指令はクリアだぞ・・・よくやったな、ニーナ
オレも家庭教師として―――・・・眠い、ぞ」



新奈の横で、目を開け、鼻提灯を出して眠るリボーン・・・

そのままの格好で、二人一緒に担架に乗せられ病院へ向かった










いつもの草原、いつもの姿けれど黒髪少女の頬は涙で濡れていた



「(落ち着いて骸の事を考えると・・・私、馬鹿過ぎる
無神経すぎるわ・・・確かに骸達がしてきた事を許すなんて出来る事じゃないけど―――・・・)」



木に背を預け空虚を見つめ涙を流す新奈の前にその少年は現れた



「新奈・・・さん?どうしたんですか?」



先刻の時とは違う優しい声に新奈の瞳から再び涙が溢れた

その様子に骸は目を瞠り新奈の前に膝を折る



「新奈さん、何かあったんですか?」

「(もう・・・前の様には・・・話せなくなっても)・・・・・・約束」

「?」

「私の方から・・・話し掛けるって」

「・・・その事、ですか・・・あの・・・」

「貴方から、話し掛けちゃ・・・意味、無かったね」

「え・・・?」

「骸の用事って・・・私にだったんだね」



涙を流したままの笑みは痛々しいものだった

新奈の言葉に骸は悟ったようで無感情に新奈を見つめた



「貴方のそんな顔・・・見たく、なかったな」

「貴女は僕と会った瞬間に気づいていたんですね・・・」

「会うまでは・・・同姓同名だって、信じてたけど・・・あんな所で会っちゃ・・・ね」



骸は新奈から顔を背けるように俯いたその骸に

「勝手に喋るから聞いて」と言葉を続ける新奈その言葉は涙交じりで、でもいつもの様に・・・



「貴方のおかげで・・・今私、独りじゃなくなった・・・
本当にありがとう・・・感謝してる・・・ありがとう――・・・コレだけは言いたかったの・・・・・・
私の血を全部抜いて、全部入れ替えたって、私の家系が変わるわけじゃない・・・
貴方を苦しめるだけの存在にしか成れないなら・・・会わない方が良いとも思った
だけど・・・会いたかったから―――・・・っ!?」



涙を流す新奈を骸は己の腕に閉じ込めた



「まったく貴女は・・・ボンゴレ、それは告白以外の何者でもありませんよ」

「っ!?こく・・・違うもん・・・」



骸の肩に顔を埋めて左右に首を振ってやった



「何処で涙拭いてるんですか・・・?マーキングですか?」

「違う・・・骸、壊れた!」

「今壊れているのは貴女です・・・」



幼子の様に泣きじゃくる新奈の背を骸は優しく叩く



「僕は決して許しませんマフィアを・・・」

「うん」

「・・・いつから貴女が後継者という事に・・・?」

「一年位前、後継者の三人が共倒れして・・・嬉しくないけど棚牡丹継承ってヤツ・・・」

「マフィア内では珍しいことはないですよ、醜い覇権争いなど」



新奈は抱きしめられたまま骸に体重を預け目を閉じその場はしばしの静寂に包まれた



「・・・骸」

「はい?」

「また会える?」

「もう此処ではゴメンですね・・・
貴女がボンゴレとして在り続けるのであれば体を頂きに行ってさし上げますよ」

「骸が言うとなんか別の意味に聞こえてくる・・・」

「・・・勝手にそう思ってなさい、沢田新奈」

「(名前・・・・・・でも、また)会える事を願ってる」

「勝手にしなさい」

「うん、またね・・・骸」



骸の腕の中から新奈の姿消えた



「言い逃げ・・・ですか」










―――一ヵ月後



黒曜との死闘の傷も、全員すっかり癒えた晴天の其の日は、野球部の秋の大会の日であった

新奈達は山本の応援の為、大所帯で球場に来ていた

山本が打席に入り振るわれたバットから大きな金属音が響き、観客席からは歓声が上がる



「わあ、さすが山本君!!」

「凄い、山本君!!」

「ほぉんと!特大ゴージャスホームランです!」

「にゃははは!ランボさんのお陰だもんね!」



京子、新奈、ハルは拍手を送り笑顔でマウンドを走る山本にエールを送る



「・・・ったく、山本ごときに相手チームは何やってんスかねぇ」

「ん?」



新奈の横で不機嫌顔で呟くと、獄寺は立ち上がった・・・ダイナマイトを手に



「てめーら、しっかりやんねーと暴動起こすぞ!!」

「獄寺君!?何しに来たの―――!?」

「まぁ、落ち着け、スポーツ観戦ではやるべきことが他にあるだろ」



慌てて立ち上がり獄寺の手を押さえる新奈と

意外や止めに入ったかと思われた了平も立ち上がり



「・・・野球など止めて、ボクシングやらんか―――!!」

「それも間違いです!」



青筋を立てツッコム新奈に京子は眉を寄せハルは冷や汗を流し呟く



「もーお兄ちゃんったら・・・」

「はひー相変わらずデンジャラスです・・・」

「あ、危ないよニーナ姉!」

「え?・・・!?」



勢いよく打たれたボールは新奈目掛けて飛んできたフゥ太の声で何とか避け

其の球は新奈の背後から現れた人物のミットに収まった



「ビアンキ!」

「あ、アネキ・・・ぬぁ――!!」

「お弁当、持ってきたわよ」

「獄寺君!」



ビアンキを見た途端、倒れる獄寺を新奈は支えとりあえずベンチに横にする



「ビアンキさん、今日はどんなおかずなんですか?」

「愛の篭った特性おかずよ」

「ハルも一応作ってきたんですけど・・・ニーナさんに愛を込めて・・・」

「ランボさん、いただき!」

「独占禁止!」



ハルの弁当を奪い新奈の頭を踏み台に逃げるランボと其れを追うイーピン



「コラ、二人ともそれはハルのでしょ、止めなさい!・・・もー何でこうなるかな・・・」



うだられる新奈の視界に嬉しそうに笑うフゥ太が目に入り首を傾げる



「フゥ太如何したの?」

「ううん、また皆とこんな風に居られて嬉しいなと思って」

「・・・フゥ太、そうね―――っ!」



黒曜で負った心の傷は癒えては居ないけれど笑う事が出来るほどの回復を見せたフゥ太に

新奈は目を細め笑みを浮かべると視線を感じマウンドとは逆に視線を走らせるが

其の先には親子の姿や観客だけで特に何も無かった



「?気のせい・・・?」



ランボの泣き声でフゥ太から視線を外す

ランボがハルの弁当を獄寺の上にぶちまけてしまい泣き出してしまった



「ランボ・・・何やってるの、あーあ獄寺君に・・・」



ランボを抱き上げあやす新奈の周りに皆が集まる

笑顔の溢れる其の光景に一つの声が風に乗り確かに届けられた



「いずれまた・・・」


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あきゅろす。
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