もういっそ壊してくれ
8
「もう別れようぜ」
俺は人事のようにさらりと言ってみた。生野の表情は見えない、むしろ顔を見るのは堪えられない。
そして影から生野の靴先へと、視線を移した。
重苦しい静寂が、生野が息を詰まらせたのを知らせる。
「おい…こっち見ろ。
下ばっか見るな」
それは蔑むような低い声だった。
そして見つめていた足先が、一歩また一歩と近づいてくる。
「来んな…!!」
無理に絞り出した声は微かに震えていた。
…ドン−−ッッ
「!!…ってぇ…」
枯れた銀杏の木に、無理矢理押し付けられ背骨が痛んだ。閉じた瞼を上げ、面前の男へと鋭い眼差しを向ける。
生野のギリギリとした刺すような眼光が、俺を捕まえ離さないでいた。
肩肘で首を固定されれば、逃げるなんて出来なかった。
「く、…は…なせッ…!!」
俺は喉仏への圧迫から逃れようと肘に両指を立て抗ったが、びくともしない。
そして浅い呼吸だけを続けていると咳き込んでしまい、同時に吐き気をもよおした。胃の中のものが逆流しそうな悪心に必死で堪える。
「…ぐはっ、…ぅぐ…」
その苦しさで目の端に涙が溜まり、そこでようやく力を抜いてくれたが、拘束は解けないままで逃がす気はなさそうだった。
今まで何度となく生野を見つめてきたが、こんなに切ないと感じ入ったのは初めてかもしれない。
違いの高ぶった吐息が耳障りだ。
「お前の、好きはそんなもんか?」
生野は俺を見据えながら低く唸った。
「ぅ…っせぇ…退、けっ」
「答えろ…っっ!!
付き合いたいって言ったのはテメェだろうが…!!」
その容赦のない罵声は公園中に響き渡った−−−。
−−じゃあなんで俺を
−−大事にしてくんなかったんだよ…
−−生野
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