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もういっそ壊してくれ
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「胃腸炎でしょうね。最近食欲がなかったんでは…?」


 カルテを見ながら老いた男医者が言った。食欲…そういえばここの所ろくに食べてなかったな、と思い起こしていると医者が溜め息を一つ零す。


「おそらく、ストレスが関係してるのではないかと…何か悩みはありますか?睡眠は取ってますか?近頃は滝沢さんのような若い方にも多いんです。ただのストレスと侮ってはいけませんよ…で、思い当たることは?」

「…」


 俺は何も答えなかった。言う必要はないと思ったからだ。たかが高校生の思春期特有のストレスを、初めて会った老人に晒す素直さは持ち合わせてはいない。カゴに置いた荷物を取り、一言だけ呟くと早々と退室する。


「ありがとうございました…」

「…消化を助ける薬と、痛み止めの薬を出しますね…。滝沢さん、深刻な悩みならば心療内科を紹介しますよ。お大事にね…」


 その後方からのしゃがれた声に「はい」と振り向かずに返した。


≡≡≡≡≡≡


 自宅に戻るとキッチンから母親が顔を出した。年齢の割にカラフルで派手なエプロンを付けている。


「留亜あんた病院に行ったの?」

「…具合悪かったから」

「あらそう、やっぱりね。さっき保健医の先生から電話頂いたわ。滝沢くんに病院へ行くように言いました…ってね。で、なんの病気だったの?」

「ぅるせぇな。別に大病じゃねんだから、いいだろ?離せよ」


 二階に上がろうとしている制服の袖を掴み、進行を妨げる母親を横目で睨む。すると母親はキョトンとした顔で手を引いた。


「可愛くないコだわ」

「産まなきゃよかっただろ…」

「んまー」







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