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もういっそ壊してくれ
2


 それは少し裏返った怒声だった。

 声のする方を見ると嫌われ者の生徒指導顧問、前田だった。白髪混じり、汚く禿げ散らかしているくせに、やたらと人の髪の色に難癖をつけてくる。ビール腹が邪魔をしシャツが着こなせないのか、常に上下、濃い小豆色のジャージ姿だ。それなのにも関わらず「腰パンていうのが流行ってるらしいが、そんなのちっとも恰好良くないぞ!」と生徒のズボンを持ち上げるのが日課だった。噂では無類の男好きで、指導室にはローションやゴム、軟膏の類いが常備されているらしい。


 前田は俺たちの存在を認識するや否や、ポリポリと鼻を掻きニヤニヤとしながら近づいてきた。


 嫌な野郎に見つかったと強張り、半歩だけ後退する。生野は鋭いままの視線を、寄ってくる男へと移した。


「おお。お前は先週転入してきた…セイ…ショウノだな!フンフン、近くで見ると一段とまた男前だなあ。お前が来て以来ホモが大量発生してるぞ。グヒヒ…ッ」

「…ちっ……」


 前田が品の無い笑いを披露すれば生野は舌打ちで返す。万年ジャージ野郎は一旦、目を丸くしたが俺の存在を再確認した途端に、不気味な笑いを再現した。

「美人で名高い滝沢も…こぉんな時間に、こぉんな場所でお前ら何してるんだあ…?」

 数分前と同様の質問を、意味ありげにゆったりと繰り返す。嫌な思考だけが駆け巡り、腰が引けそうになった。うまく切り返せないことが、じれったさに拍車をかける。


 すると情けない俺を黙視した生野が口を開いた。


「たいしたことありませんよ。くだらない理由で滝沢がケンカ売ってきて、相手してやってただけなんで」

「…ケンカ…滝沢がぁ?」


 そしてフムと首を傾げ、生野と俺を交互に見比べる。


「なんか俺のすることが気に入らないみたいで。さっきから一方的にキレてるんですよ、こいつ」


 いつになく饒舌に言い足し、突き刺すような視線をまた俺へと戻す。


 苛立ちが引かない上に居心地が悪く、一刻も早く退散したい気分だった。俺は一言も口を挟まないまま、バッグを取りに自分の机へと向かう。


 すると荷物を手にしたと同時、背後からの不細工な笑い声が聞こえてきた。


「…ヒヒヒ…そっかあ。そうかそうか…ヒ。喧嘩は良くないぞお。うん、よしっ今から指導室へ来い。先生が仲裁してやろう。二人一緒に…いや!!一人ずつだ、一人ずつに平等に話を聞くからな!!先生に任せろ。いやぁ〜〜これも教師の仕事のうち。ヨシ!!まずは滝沢からだなっ!!」


 ハッと気がつき急いで振り返るが既に遅かったのか、前田は俺の面前に立ちはだかっていた。




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