怖い話
乗車拒否
その日は激しい雨が降っていた。深夜勤務のタクシー運転手はやる気が起きず、だらだらと車を流していた。昼ごろから降り始めた雨は夜になり一層勢いを増していた。夏だというのに肌寒く、冷房を切ろうとスイッチに手を伸ばしたその時、豪雨の中傘も差さずに橋の手前に立つワンピースを着た若い女の姿をライトが照らしだした。服はずぶ濡れ、長い髪は青白い顔に張りつき、先からはしずくが滴れている。不気味というか、その乱れた様子に嫌悪感に似たものを感じた運転手はそこから離れようとアクセルを踏もうとした。すると女がタクシーにすがるような視線を送りながら腕を上げた。しかし乗せればシートが濡れてしまうと思った彼は女を無視した。いわゆる乗車拒否をしたのだ。それからしばらく走った頃、突然運転手は背中に寒気を覚えた。どうしたんだ?と思う間もなく次は呼吸が苦しくなり始めた。言い知れない不安。運転手は休んだほうがいいと思いスピードを緩めた。その瞬間、いきなり何者かが彼の首を締め上げた。
「うぐ、ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!」
驚きと恐怖からぱにっくになりつつも運転手は片手でハンドルを操りながら抵抗した。しかし『手』はより力を増して首を締め上げてくる。彼はなんとか反撃しようと必死の思いで後ろを振り返った。そして見たのだ。
髪を振り乱し、物凄い形相で掴み掛かっているずぶ濡れの女を…

仲間にその話をすると、そこは『出る』ので有名な場所だったという。乗せても途中で消えてしまうため害はないというのだが、乗車拒否をしたのは彼が初めてらしい。


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