脇道寄り道回り道
一人、輝ける朝に笑う(フタイヨー未来話)
愛しているでは足りぬなら、この世界の言葉では伝え様がないね。
ジーザス・永遠に届く祈り・僕の全てで。
言葉が役立たずなら寧ろ好都合。
オリンピアグリーン・口下手とは生温い・僕の脆弱な唇。



愛している、と。(態度で示せ・誰かの声・小さく、笑う)



























空は果てしなく続くものだと。
この緑の香りを嗅いだ時、常に実感する。風は何処から何処まで駆け抜けていくのか。

幼い頃、ただ幸福でしかなかった頃に見た、お粗末な公園に似た。
(澄み渡る空を駆ける風の舞いに揺られるガーデングラス)
愛しい人の、快活な舌先がねぶる甘い冷菓に・酷く似ている。
(意志の強い瞳に映り込むキャクタスグリーン)


愛しい人へ向かう想いと同じだけ、愛しい人が育ったこの街は気に入っていて。だからこそ、通常成長と共に薄れゆく筈の微かな記憶にしがみついた哀れな男。



「責任感が、皆無だな」

呟く声は酷く満足した様に響き、ガーデンスクエアからインサイドスクエアへ吹き込む瞬風に柔らかく奪われた。
目線の先に、不遜な顔をした態度の大きな男が耳にボールペンを差し、両手の書類を苛々眺めている様が見て取れる。自棄に慣れた動作でガリガリと額を掻くのはボールペンの頭、まるで競馬新聞片手に心理戦を繰り広げる予想屋だ。

彼には癒しの空間である筈の屋内庭園の効果はないのか。いつもは執務室の座りなれたオーダーメイドの椅子に張り付いているが、わざわざ此処を書斎に選んだという事はやはり疲れ果てているのか。


唇の端だけで笑い、ゆるりと背後から忍び寄ってみる。





「…何の用だ、優等生」

気配を絶ったつもりでも、この男には無意味だ。振り向く事も無く投げ掛けられた声に肩を竦め、

「引き継ぎ報告を受けるのも新役員の責務、と言い訳しておきますがねぇ、前中央委員会副会長」
「来季行事日程200枚、高等部新入生の願書が300枚、下院年度末決算報告書その他諸々であります、前中央委員会会計殿。…バイオジェリーの処理は誰担当だ?」
「区画内保全部の課長」
「旧革新派の残党か。丁度良い、適当に締めて追い出してやる」

物騒な会話を聞く者は緑だけで。
酷く幸福だな、と。今更ながら再確認する。

「適度にねぇ。それより、顔に似合わず良い趣味だベルハーツ=ヴィーゼンバーグ。左薬指のそれは、指輪と言うより首輪の様なデザインですねぇ。とうとう嫁入りですか、おめでとうございますプリンセス」
「一言余計だが誉め言葉として受け取るぜネイキッド=ヴォルフ。シュンからお前の分の日刊新2年S組の創刊誌預かってる」
「おや?…おやおやおや、何と記念するべき一冊目が新左席委員会特集?副会長のブロマイドとピンナップつき…巻末付録は『それいけフタイヨー(キャンパス編)』だなんて…」
「喜べ変態、これでテメェのキャンパスライフも明るいぜ、なぁ」
「とりあえず学部に籍だけ置いて、もう一度高校生活を始めるつもりだったんですが。私、実は高等部二年に昇級願いを出してるんです。おや?高坂君の足元に丸められているそれはよもや私の願書?」
「…引き継ぎも何も殆どメンバー変わってねぇが。今度自治役員と下院交流会でも開くか」

飲まなきゃやってらんねぇ、彼は壮絶な表情で宣った。成程、風紀委員よりもマナーに煩い恋人を持つと迂闊にワインボトルを開けられないらしい。先月の内にとっとと大学部スキップ申請した男の台詞だ、重みがある。

「私も陛下も一年生だと言うのに、君だけ四回生からなんてねぇ。何はともあれお祝いしなければ」
「テメーは爪が甘いんだよ」
「おやおや、教育課程にチェックが入っていますねぇ。ふーん、算数の先生でもおやりになりますか?今年の三年Sクラスには、算数の苦手な帝君がおられる」

無視を貫く男の琥珀の双眸は幾らか機嫌が良い。数週間後の佑壱の反応が楽しみだ。実習生として、つい先月卒業した筈の中央副会長がやってきようものなら、佑壱だけではなくクラス中ざわめくだろう。

「交流会の前に、今から私がこの体で祝って差し上げますよダーリン。どうですか、食前酒と共にふーちゃんの活き造りは」
「まぁ、それは考えておくとして、風紀委員の分際で昼間から飲酒か」

茂る花壇、張り巡らされたガラスのアプローチの向こうに、果てしなく続く水平線。

「説教の押し売りですか不愉快」
「大人しくこれ手伝えや…、俺様を殺す気かよ。お陰で毎日毎日顔色が悪いだの挙句にゃ性欲が足りないだのED扱い受けかけてんだよこっちは…!少しは休ませろ!」
「ならばあれを鑑賞すると宜しいでしょう。植物には癒しの効果があるそうです…そうだ、適量のブランデーを落としたハーブティーなど良いかもしれませんねぇ。此処には幾らでも生えている」

僕は指差す・コバルトグリーン・愛しい人が好きだと言った、翡翠を。


「………成程。不衛生だと言いそうな面した割にいい案だ、クソ眼鏡。俺様に茶ぁ煎れろ」
「迎えが来るまで暇ですからねぇ、呑み比べに付き合って頂けますか」
「あ?テメェ、確か山田と出掛けるっつってなかったか?待ち合わせてんじゃねぇのか、奴と」
「冗談。此処で酔う理由を作る必要があるんだ」

肩を竦めて言えばストレス解消宜しくブチブチと草を抜いていた男は揶揄めいた笑みを浮かべ、


「…成程、既成事実作戦とはまた、お前らしい陰険且つ非情な。風紀の腕が鳴るぜ、犯罪者」
「卒業まで待つ、なんざ冗談じゃねぇ。いい加減我慢の限界なんでな。見逃せ、風紀委員には休暇をやってある」
「呆れるほど計画的だぜ」


秘密めいた会話・聞く者は艶やかな極彩色の緑のみ。いつかあの人が好きだといった、艶やかな。
尽くしきれない言葉での愛しているでは足りぬなら(寧ろ好都合)、仕掛けた罠にただ溺れて。






(僕は笑う)


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