脇道寄り道回り道
無防備なきみに恋をする5題(フタイヨー)
1.誰にでもスキだらけ
苛立つのはこんな時だ、と。心の中で目を眇めた瞬間、酷い羞恥心を覚えた。
「時の君っ、こんにちは!」
「はい、こんにちはー」
嫉妬の強さは自覚している。
片思いだった頃から、その期間の長さが与えたものだと知っている。哀れな程に。
「…今のは?」
「ん?えっと、確か…体育科の子じゃないかなー」
「へぇ」
左席委員会が誇る副会長様だ、二期連続就任挨拶があれば嫌でも有名人になるだろう。今では中央委員会よりも、左席委員会の方が慕われている。
「何故、他クラスの生徒が親しげに話し掛けてくるんですか?名前も知らない癖に」
「今年の新歓祭の打ち合わせの時に、実行係に居たんだよ。それが何?」
「何、と言われましても…」
「山田先輩っ、こんにちはー!」
またか、と。
今度はそちらに顔を向け、全力で睨みつけた。ヒクリと怯えた生徒は、然し背後でにこやかに手など振っている太陽に見惚れ、恥ずかしげに走っていった。
「あはは。かっわいーな、一年生」
どちらが可愛いんだと叫べば凄まじい顔で見つめられ、黙り込めば一生、伝わらないまま。
「…私には挨拶などしないのに」
「性格バラした白百合閣下じゃ、ハードル高すぎるんじゃない?抱かれたいランキング一位おめでとさん」
「天の君が全校生徒票を獲得した所為で、やり直し選挙になっただけでしょ」
「はは、」
ああ。
なんて無防備なマイスイート、
「俺は、俊には抱かれたくないなー」
しょぼい男の嫉妬心。
消えてなくならないもの。
2.眠るきみに秘密の愛を
眠っている時はあどけない。
起きている時は眉間に皺を寄せて、努めて怖い顔をしている。
顔を合わせる度に嫌がられてきた。
性悪だと陰険だと鬼畜だと、何度も。
「…まぁ、貴方の意識が向いていれば何だろうと構わなかったのですがねぇ」
眠る額に落とした口付けは。
伸びてきた腕に引き寄せられて、唇へ。
3.無意識のゼロセンチ
目が覚めて、細い腕に抱かれている自分に気付く。
案外男らしい彼は、腕枕も膝枕も惜しまない男前だ。
まだ、安らかな寝息が聞こえる。
昨夜の情事は我ながら長かったと呆れ混じりに溜め息一つ、
「だめ。何処に、も…行かないの…」
シャワーを浴びようと起き上がった体は、眠り人の腕に容易く捕まって、今。
彼の左胸に、最も近い、腕の中。
4.きみの心に触れさせて
規則正しい鼓動が聞こえる。
酷く泣きたくなったから目を閉じて、潜り込む様に体を押し付ける。
脈動が融け合う。
二人の心臓がまるで一つになったかの如く。
「お休みなさい、愛しい人」
ブランケットの中は、一つに寄り添う、二人だけの世界。
5.狼まであと何秒?
二度目に目覚めた時、眠り姫を揺り起こした王子は濡れた唇に笑みを描いた。
「俺以外に、こんな簡単にキスさせたら、殺すからねー」
なんて、ひどい人。
手を伸ばせば届くことに僕はなぜか、戸惑っていた
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