脇道寄り道回り道
奴が風邪を引きました(フタイヨー)
今、目の前でいつもと何ら変わらない表情でいつもと何ら変わらない嫌み皮肉を淀みなく言い退けた男は、聞いた話によると風邪を引いているらしい。
何故「らしい」かと言えば、呆れるほどに無神経なその男は、本当の意味で痛覚神経が麻痺しているからだ。

画鋲が足の裏に刺さっても全く気付かない無神経さは、この男の外見が放つ儚さやら繊細さやらから、日本とリオデジャネイロくらいか懸け離れていたからに他ならない。

「折角、人が心配して様子を見に来てやったって言うのに…」

相変わらず残念なお顔ですね、と宣った性悪を前に、相変わらず残念なお顔ですよと自虐的に切り返した俺はお人好しな自分を殴ってやりたい気分だった。

「帰る」
「お見舞いじゃなかったんですか?」
「元気そうじゃんか」

いつもと何ら変わりない愛想笑いを張り付けた男を睨み、たった今くぐったばかりのドアを叩き閉める。

途端に、微かな咳き込む音を聞いた。


「…ったく、マジで体調崩してんなら平気な振りすんなっつーの」

惚れた弱みか、ただのお人好しな性格か。答えを弾き出せないまま、壊滅的な料理の腕前でお粥を作ってやろうかと意気込んだ。

どうせ、俺が作ったと言えば例え生ゴミでも笑顔で完食する様な、とんでもなく捻くれた恋人。


「よし、俊から看護士のコスプレ借りよ」

口直しのデザートは俺、なんて言ったら少しは狼狽えるだろうか?
どちらにせよ、笑顔で完食してくれるのは間違いないだろうが。

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あきゅろす。
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