脇道寄り道回り道
UPDATE再録[帝王院]
「ご一緒します」
「駄目だ」

想定通りの言葉にコンマ一秒で即答すれば、ピキッと空気が凍った気がする。

「保護者じゃないんだからさー。お前さんが来る必要ないだろ?」
「つまり、私と言うものがありながら合コンに行きたいと?」

身の毛が弥立つとは、目の前の男の微笑を指す言葉に違いない。怯んだら負けだと心中呟き、湯飲みを啜る。

「何度も言っただろ。違うって、俊のサークル活動仲間のオフ会に付き添うだけ。そんな大したもんじゃ、」
「婦女子の群れに男一人ねぇ」
「あのね。腐女子の群れはともかく、俊も居るから。そんなハーレム状態じゃないから」

どうやら二葉と自分には深い溝があるらしい。同じ韻でも意味が全く違う事に、性格こそ捻くれているものの極一般市民である二葉は恐らく気付いていないだろう。婦女子と腐女子には、似て非なる最大の違いがあるのだが。

「…」
「目が笑ってないですネー」
「一緒に、」
「駄目だ。」
「………」
「そんなに俺は信用がないんですかい」

笑顔の沈黙とは、我が恋人ながら恐ろしい。だが然し、此処で負けたら目的が果たせない。

「デンジャラスにも程があります。良いですか、女は全て須く獰猛な生き物なんですよ。そんな所に貴方一人で行かせられると思いますか?私の繊細な胃にブラックホールを生むおつもりですか」
「腐女子が獰猛だっていつ知ったんだい?つかお前さんの何処に繊細なトコがあった?」

笑顔には笑顔で応対しよう。ああ、二葉の腸が煮え繰り返る音が聞こえてきそうだ。腐女子の獰猛さはともかく、獰猛さ加減ではお前に勝てる人間はいないと言ってやりたい。
誉め言葉にしかならないので言わないが。

「寄り道しないで、夜にはちゃんと帰ってくるし」
「ふん。お持ち帰り出来るつもりだったらただの馬鹿だな」
「…お前さんねー、俺だって健全な男子ですよ。逆撫でするなら浮気しますよ。帝王院の進学科って言えば、学園内はともかく、外ではモテるんだって!」

ぐ、と詰まった男に勝ち誇った笑み一つ。いやいや違う、そうではなくて、今はとりあえず平穏な話し合いが先決なのだ。
付いて来かねない二葉を丸め込む為に、わざわざ報告しているのだから。

「何も心配する事ないし。何なら尾行させてもいいよ。…今更だし」
「万一、何処ぞの馬鹿女と抜け出してみろ。カスピ海に沈めてやる」
「…。鎮まりたまえー」

表情こそいつもの麗しい微笑みから吐かれた声音は低く、物騒な事この上ない。とりあえず尾行程度で免れそうだと安堵の息一つ、念の為に保険を掛ける事にした。

「あ、もし付いてきたら即別れるから」
「…」
「付いてくるつもりだったろ、お前さん。俺と別れたいなら同伴する?」
「……………お留守番します」

うん。
泣きそうな顔が可愛い。



「こんにちはー」
「あっ、タイヨー君!例のもの持って来たよ!」
「私も!」
「あたしも!」
「僕も今朝届いたばかりです!」

腐った人達から受け取った同人誌を輝く目で見つめ、山田太陽は晴れやかに笑った。

「自信作のピナフーだよ!」
「私のはカイフー!18禁!」
「あたしのはタイフー!20禁!」
「僕のは二葉先生総受けですっ」
「ありがとー!次の新作も期待してるからねー」

知らぬが仏。
獰猛な魔王の飼い主は、年々腐りつつあると言う噂が流れたとか流れなかったとか。

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