脇道寄り道回り道
不良×平凡をやってみよう[帝王院]
不良×平凡シチュを生で見たい。
そんなオタクの一言で、帝王院に君臨するヤンキー達は燃え上がった。



総長が、見たいと言うなら、やってみよう。
─────字余り。



不良攻めトト開始。
賭け事なら負けない不良大募集中。








■シーン1、神崎隼人の場合



「好きだ。俺と付き合え」

全くもって棒読みな台詞に、罪なき生徒が青冷めた。何とも平凡な生徒は、調査によってノーマルである事が判明している。
残念ながら体育科在籍、運動神経抜群だろうが性格は平凡、いや、チキン寄りの様だ。今にも倒れそうな表情である。

「せせせ星河の君、つつつ付き合えと言われましてもっ」
「何処に?とか、かったるいことほざいたら潰すぞー」
「ひぃっ」

キラリと光る黒縁が貯水タンクの向こうから覗いていた。フェンスを背後にした隼人には見えるが、平凡スポーツ少年には見えない。
ティアーズキャノン最上階、世界一の高さを誇るだろう『学校の屋上』は、事の提案者であるオタクを溺愛し且つ自身が腐男子である中央委員会長が『けしからん直ちにやれ』の一言で明け渡した。ので、普段誰も近付けない最上階には見物客として抽選で選ばれたバイスタンダー、つまり早い話がエキストラ不良で犇めいていた。

屋上は不良の楽園、だと本気で信じているカルマ総長による策略である。
彼らは普段見れない屋上に興奮しながら、そこらの総長ですらビビるカルマの神崎隼人を前に大人しく成り行きを見守っていた。今にも倒れそうなスポーツ少年に同情するが、うっかりホモになっても良いくらい美形である隼人が相手なだけにちょっと羨ましそうだ。

「あ、あのっ、ごごごごごめ、」
「なーに、吃り過ぎだよねえ」
「あのっあのっあのっ、ごごごめんなさ、」

大分面倒になってきたらしい隼人が欠伸を噛み殺しつつ、握り締めた拳を背後のフェンスに叩きつけた。
がしゃんっ、と凄まじい音を発てたフェンスが大きく歪み、コンクリートに刺さった脚の部分が軋む。全ての不良が冷や汗を流し、オタクがデジカメを光らせ、目の前の少年が凍り付いた。

「あのさあ」
「ひっ」
「断るとかマジ有り得ないんだけどー、まっさか断ったりしないよねえ?」
「あ、あの、」
「てゆーかさー、」

ゆらり、と。
一度目を伏せて、真っ直ぐ視線を向けてきた隼人の表情が抜け落ち、いつものニヤニヤが消えていた。
照りつける太陽の存在すら忘れさせる鋭利な表情を前に、誰もが呼吸を忘れて。



「『はい』か『宜しくお願いします』か『殺して下さい』のどれか、…てめぇに与えられた選択肢だ。選べ」
「っ、ひっ、」
「早く選べっつってんだろーが!!!」

ガコッ、と言う凄まじい音と共に不良の一人が吹き飛んだ。罪なきエキストラが名誉の殉職、チーン。見ていたオタクが血涙を流し、相棒のコンソメポテチを染めたとか何とか。
恐怖の余り声が出ない平凡少年に段々楽しくなってきた隼人と言えば、いつものにっこり、ではなくニヤリ、と悪魔の笑みを滲ませ、

「ほら、…選べよ。絞殺か刺殺か銃殺か圧殺か撲殺か」
「!!!」
「あは、淫死もありだねえ。振られた腹癒せに強姦殺人、みたいな?」
「喜んでお付き合い致しますぅぅぅ!」


神崎隼人、実はサド。





■ケース2、錦織要の場合



「…好きだ。俺と付き合え」

台本通りに口を開いた美しい男は、頻りに耳のピアスを弄んでいた。何せ隼人が成功させてしまった今、幾ら目の前の少年がソバカスだらけの野暮ったい地味顔だろうが、失敗る訳には行かない。

「は、はいっ!喜んでっ」

が、然し。
頬を赤く染めもじもじ手遊びを始めた少年は、寸分も悩まず速答し光の速さで要に抱き付いた。
貯水タンクの裏側で血が舞った。

浄化槽の中が赤く染まりそうで怖い。


「な、な、な、」
「ぼぼぼボク、ずっと蘭姫をお慕いしてましたっ!貴方の為なら死ねる!」

ぐりぐり要の胸元に擦り寄ってくる地味少年に、エキストラと化した隼人と健吾の爆笑、嫉妬に狂った不良達の罵声が突き刺さる。

「離れろ貴様!」
「あぁ、もっとボクを罵って下さいぃっ」
「八つ裂きにしますよ腐れが!!!」
「はぁん、蘭姫様ぁあああ」

凄い、凄まじいMがいる。
アレはもうカルマ総長クラスだ。

「あ、アイツって確か白百合親衛隊に居なかったっけ?」
「あ、時の君がブッ潰したアレ?」
「蘭姫様ぁあああぁあああああ」
「うわ、近寄るな!鳥肌が立ったでしょう!!!」



錦織要、満月の日以外は手を出さない優等生。





■ケース3、嵯峨崎佑壱の場合



「おう、俺と付き合え」

何せノンケ代表である彼は、最早別人ではないかと言う爽やかっぷりだった。にこやか爽やかな笑顔に全てのカルマが痙き攣り、総長オタクに至っては震えている。
が、カルマの名に懸けて失敗する訳には行くまい。幸いか否か、佑壱のターゲットは同じクラスの生徒だった。

「紅蓮の君、何の罰ゲームかな?」
「ふ、照れてんのか」
「………今の表情は全くけしからん僕以外にやれ」
「…あ?」
「こほん、何でもないよ」

騒がず目立たず大人しい彼は、サラサラの黒髪を控え目に掻き上げ、涼しげな目元を細める。
何故だか寒気がする眼差しだ。

「残念だけど紅蓮の君、僕に貴方は眩し過ぎるよ」
「答えは『はい』か『YES』か『Ja bitte』か、」
「いや、生きる世界が違うと言うべきだね。何せ僕は平凡攻めを見るのが好きな平凡以下の地味毛虫だから」
「─────何?」

ブツブツと呟く少年を前になけなしの眉を寄せ、エキストラ達の視線を意識してしまった上がり症が息を呑む。
いきなり肩身が狭くなってきた。なのに目の前の少年はいっそ清々しい程に堂々としているではないか。不良に囲まれ、帝王院最高レベルの不良である佑壱を前にしても全く狼狽えていない。

「第一、僕なんかを呼び出す暇があるなら無人の特別教室とか中央執務室とかに連れ込まれて良いんですよ。職権濫用万歳」
「は?」
「ピナイチとかイチピナとかヒナイチピナとか流行ってるみたいだけど、僕から言わせれば邪道だね」

全く意味が判らない皆が沈黙し、貯水タンクの裏だけが俄かに狼狽えている様だ。

「因みに、ヒナイチピナの場合のみ下剋上らしいよ。元々ピナイチで、副会長が成長してからイチピナに変わるパターン」
「高坂がどうした」
「ま、僕にとっては何のオカズにもなりゃしない。これならまだピナ総受けを妄想した方が興奮するね」

余り表情が変わらないらしい少年は腕を組み、無言で佇む佑壱をちらりと見上げた。


「さぁ、僕に構わず急いで中央執務室に行って下さい。あぁ、付き添いが必要なら喜んで、但し部屋の前までだけど。僕は生を見るより妄想したいタイプだから…」
「………」
「あっ、もしかしてさっきの付き合えってこの事だったりしたかな?それなら前言撤回ですとも」

全く意味が判らない佑壱が空を見上げ、貯水タンクの裏を見やるが。監督であるオタクの姿は見えない。
台本には載ってなかったパターンだ。どうすれば良いのか全く判らないのは、数学が苦手な応用が効かない性格の所為だろうか。


今なら自作パソコンを組み立てられる気がする。実際は今朝テレビのリモコンを壊したばかりだが。
電源ボタンを押しただけで爆発するなんて。ちょっぴり眉毛が焦げたではないか。いや、焦げるほどなかった。


「あー………俺と付き合え?」

好きだ。と言う台詞は言わない方が良い様な気がした佑壱が遠い目で宣えば、漸くにっこり笑った少年が大きく頷いた。
何はともあれ成功らしい、と息を吐いた佑壱の安堵に緩んだ美貌を眺め、



「何なのその犯された後みたいなお色気顔は非常にけしからんもっとやれ」



嵯峨崎佑壱、未確認生物の捕獲成功。後にオタク二匹が、その少年をキフジンと名付けたらしい。



貴腐神






■ケース4、叶二葉の場合



「耳穿って良く聞け。
  愛してる、俺のもんになれ」

アドリブ万歳の最強不良が見える。オタクの拍手が高らかに響いた。

「はい?」
「俺と付き合え」

目の前には帝王院最強の平凡、半分呆れているのか死んだ魚の目で目前の美形を見つめ返したらしい。

「んなトコに呼び出して何様なのかなー」

然しながら不良達ですら涙目でフェンスの向こう側、一歩間違えれば落ちる所に逃げているにも関わらず、吹き荒ぶ風で乱れた前髪を整える彼は渇いた笑みを一つ。

「照れてんのか、可愛いな」
「また俊の入れ知恵かなー?暇人だね風紀委員長サマー」
「余計な口叩いてる暇があるならとっとと答えろ」
「アハハ、
  誰に言ってんの?」

ヒィ、と悲鳴を上げた貯水タンクの裏側にカルマが隠れている様だが、フェンスの向こう側で見守っている不良達も悲鳴を上げた。
そう、狂気の貴公子と名高い超最強不良相手に何言ってんのっ、とビビった訳ではなく、


「叶二葉ぁ」
「は、はい」
「そこに正座しろ」
「ごめんなさい」
「んな所に呼び出してお前さんのお遊びに付き合わなきゃなんない義務はないと思うんだけどねー、どう思うかい?」
「すみません」
「謝るくらいなら端から呼ぶなっつーんだよ、ちっ。…折角ベストエンディング見たばっかの幸せが吹き飛んだ」
「大変申し訳ありませんでした」
「反省してんのかお前さんは!次また下らない用事で呼び付けたら首絞めるからな!」
「は、はい、ぐす」
「ふん、その顔さえなけりゃ捨ててんのに…」

副会長以上に鋭い舌打ち。どうやら二葉の価値はその美貌だけらしい。
万一顔に傷を作ったら…と、想像し今にも気絶しそうな二葉を見下したチビッ子が片眉を跳ね上げ、ポケットに突っ込んでいた手を差し伸べた。


「で?俺のコトが大好きなふーちゃんは、何処に付き合って貰いたいのかなー?」
「…え、」
「あはは、その付き合うじゃないって?判ってるよ、つまりこう言うコトだよねー」

恐る恐る手を伸ばした二葉の右手を掴み引き寄せて、二葉の美貌を覗き込んだ男が灼熱の太陽を背後に、笑う。



「俺に付き合え二葉。…地獄の果てまで」


きゃー!
と言うオタクとエキストラの悲鳴に拳を掲げた平凡少年が、惜しみない拍手の中、真っ赤に染まった鬼畜の手を引いて去っていった。密かに賭け事へ参加していたらしい。



※追記
■ケース4.5、山田太陽の場合


叶二葉、本命に弱過ぎる。
山田太陽、顔さえ良ければ最強サド。






■ケースLAST、???の場合



「怖いのか?」


囁く声音が世界を従わせる。


「…俺が」

一歩、また一歩。
純白のセメントを踏み締め近付いてくる影に、世界は震えた。

「何度流せば伝わるだろう」
「…」
「この心が、血を」

するり、と。
頬を撫でる指、冷たくも暑くもない指先はまるで現実味がない。


「愛してる、では。…足りないくらいに魂が悲鳴を上げているんだ」

囁く声音が、鼓膜を。

「餓えた本能が渇いた理性を覆い隠す。…最早俺と言う動物に心など存在していない」

心臓を貫く眼が、網膜を。

「喰わせてくれ、その魂を。引き換えに俺の躯を明け渡す。今この場で心臓を貫き肉の奥深く魂の根核まで届くなら、差し出せるだろうが」

焼き付けて食らい尽くして、もう。


「俺の心はもう、お前の右胸に埋まり込んだ。この手が掴めるものなど、何処にも」
「…」
「望むなら幾らでも、願うならすぐにでも、祈るくらいなら、今。」


くたり、と倒れ込んだエキストラ達が見えた。ふわり、と柔らかい風が頬を撫で、狂気に満ちた眼差しを隠しもしない男の銀髪を靡かせる。



「お前を俺に、─────寄越せ。」


この声に逆らえる者など存在しないに違いなかった。




「俊、次は俺の番だ」
「待ってカイちゃん、さっきの台詞もっかいやり直しさせて貰いたいにょ」
「駄目だ。これ以上許せば周りが孕む」
「ふぇ?でもさっきの『お前を俺に寄越せ』より、『お前を喰わせろ』のほ〜が格好良かったかもっ!」
「面映ゆい」



不良攻め対決、エキストラ並びにカルマ全滅により遠野俊圧勝。




但しエロスモード全開の神帝には全く歯が立たず、今日もアンパンマンマーチをリピートしたとか何とか。
エキストラの皆さん、お疲れ様でした。

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